技術資料

地質モデリング

03.こぼれ話~図幅を立体視してみよう~

担当:冨永英治
2021.11

下図の中央、北から南へ流れているのが一級河川「相模川」です。地質図幅中、青~黄色と白抜きで示されている部分(下図における赤点線の範囲)は、ごく最近(と言っても数万年前~現在)の相模川の影響を受けて形成された場所です。とても広いですね。よく見ると、そのエリアは、周りよりもやや低い地形(低地部)であることがよくわかります。また、下流側の南縁では更に広く東西に広がっていることがわかります。

上:地質図説明、下:地形図(Geo-Graphia表示)

相模川よりも西側では、標高が高い山地が分布しています。丹沢山系です。丹沢山地は、大山(1,246m)、塔ノ岳(1,491m)、丹沢山(1,567m)などから構成されていますが、今回利用する地質図エリアにはそれらの丹沢山系の主要部は含まれず東縁部が少し見える程度です。江戸時代から現在まで続いている大山詣の玄関口に位置しています。この相模川の西側エリアは、山地を含み、起伏が大きく、古い地層が露出しているという特徴があります。

<大山街道ルート(大山詣)>
江戸時代中期以降、江戸の赤坂御門を起点に、大山詣りの道として利用された大山街道ルートは、現在の国道246号に沿っているそうです。落語「大山詣り」にも、大山詣へ行く町民たちの様子が描かれています。
参照:国道交通省関東地方整備局・川崎国道事務所大山街道

相模川よりも東側では、頂部がわずかに平坦面を残す「丘陵」と頂部に広い平坦面を残す「台地」が多くみられます。台地や丘陵は、頂部に平坦面が存在することから、そこはかつて、水(海や河川など)に営力(地質学的現象を起こす自然の力)による履歴を受けたことが分かります。また、相模川の支流(目久尻川)や境川、引地川が「丘陵」、「台地」を流れることで浸食され、谷が形成されています。この台地、丘陵の高さの変化は概ね北から南へ低くなっています。

地形図に地質図を貼り付けた図(高さ倍率変更)

また、南縁部付近の高座丘陵(寒川町付近)では南に傾動する他のエリアの傾向とは異なり、地形の起伏に富む箇所が存在します(上図の赤丸範囲)。この茅ヶ崎市芹沢二本松から寒川エリアは、地殻変動に伴う、隆起帯(寒川ドーム)の存在が示唆されています1)。このように相模川付近、相模川西側、相模川東側を大きく3つに区分してみるとそれぞれ、異なる特徴を有していることがわかります。

我々の生活圏は、山地のエリア、低地部のエリア、台地や丘陵地のエリアなど、地形に合わせて展望台、公園、住宅、工場、飛行場などさまざまな用途で土地利用してきました。
こうして、広域を3次元で立体視してみると、山地の隆起、河川の浸食と堆積、さらには、地殻変動という大きな営力の上に成り立っていることを改めて実感します。

住宅エリアは、平坦な立地に多く存在します。そんな平地でも小さな窪みや高まりなどを調べて、それを追っていくと大きな河川や丘に続いているケースもあります。
次の写真は、当社付近の道路を写したものです。何気なく通っている道路ですが、やや窪んでいる部分があることに気づきます。
この辺りは、引地川と境川から挟まれているものの、少し離れているため、いつも通るたびに「なんとなく坂があるなぁ」程度にしか思っていませんでした。

当社付近の道路写真

次の3つの図は、写真付近の地図を目的ごとに並べてみたものです。黄色の矢印は、撮影方向を示しています。
道路地図でみると、住宅が立ち並び一見、なんてこともない場所に見えます(下図上)
次に、通常の地図では分かりづらいですが、高さ倍率を大胆に上げて(つまり、高さ方向を強調して表現)見てみますと・・・
地形コンター(下図中)を見てみると周囲よりもわずか(数m程度)に低くなっていることが分かります。さらに、道路地図を地形コンターに貼り付けてみる(下図下)と地図上で俯瞰してみるとその窪んでいる部分は、道路沿いに南の方へ連続していることが分かります。

本社付近の地図(高さ倍率17.09拡大表示)
上:平面地図、中:地形コンター図、
下:地形コンターに地図貼付の図)
(高さ倍率11.39拡大表示)

そのまま、道路を南下していきます。線路を飛び越えて、さらに進んでいくとこの窪んだ地形が南南西方向に下って連続し、やがては西側の引地川に合流していることがわかります。つまり、現在、住宅や道路になっているところが、実は、引地川の支流であった痕跡と推察でき、その河川による浸食作用で低地部が形成されたと考えられます。

地形図(高さ倍率17.09倍表示)

2019年秋、神奈川県は、台風19号に伴う記録的な暴風雨を受けました。このとき、神奈川県の中央を流れる相模川では水位が急激上昇し、多くの方が被害を受けました。また、引地川と境川でも氾濫危険水位を超えました。
私たちが住む場所は地形的に台地なのか河川低地部なのか、または、どちらに向かえば地形が高くなるのかを頭に入れておくだけでも、安全な避難行動につながるはずです。
地形変化を調べることは、津波や豪雨、浸水といった水災害時に役立つと言えます。各市町村では、町単位の詳細なハザードマップ、浸水想定マップを作成しているところもあります。普段から、これらの情報を入手しておくことも重要です。

参考文献:
1)岡 重文・島津光夫・宇野沢昭・桂島茂・垣見俊弘(1979):藤沢地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,111p.

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