技術資料
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第10回 トンネル掘削と地表面沈下(5)
前回は、注入域内で生ずる引張破壊を低減するため、トンネル下部の注入をしない場合について検討しました。この結果、トンネル下部で見られていた引張破壊領域が小さくなることがわかりました。一方で、地下水位の低下や地表面の沈下が、全周注入に比べ大きくなることもわかりました。
そこで、これらの問題を解決するため、トンネル壁面から離れた領域に注入工を施す方法を試してみました。この方法は、北薩トンネル(鹿児島県薩摩郡さつま町泊野から同県出水市高尾野町柴引に至る北薩横断道路のトンネル)で採用されています。狙いは、トンネル近傍の間隙水圧の上昇を抑えつつ、湧水量を減少させ地表面沈下を抑制することです。間隙水圧の上昇が抑えられた領域では、有効最小圧縮応力が大きくなり、引張破壊が生じにくくなることが期待されます。
解析モデルを図1に示します。トンネル壁面より4m離れた幅4mの円形の領域に、注入工を施した状態をモデル化しています。モデルの寸法や物性値、境界条件などは、前回と同じです。また、注入工を施した領域では地盤の剛性と同じとし、透水係数として地盤に比べ一桁小さな値を用いました。
解析では、トンネル掘削前に注入工を施工し、その後トンネルを掘削して湧水を生じさせ、このときの地盤の変形や間隙水圧の変化を調べました。

最初に、トンネル掘削後、十分な時間を経過した後に生ずる地下水面の変化を見てみましょう。壁面に沿って注入した場合に比べ、やや地下水面の変化が小さくなっています。注入工が施される体積が大きく、トンネル内空に向かう地下水流れを制限する効果が大きいためと考えられます。
また、同様の理由から、トンネル上部の注入域の内側で不飽和領域が生じていることも見てとれます。


図2 地下水面の変化
地表面の変化を図3に示します。ただし、掘削時の変位からの増分です。壁面から離れた領域に注入工を施した場合でも、壁面に沿った注入した場合と同程度の地表沈下が生じています。
このときのトンネル断面の変位を、図4に示します。壁面から離れた領域に注入工を施した場合と壁面に沿った注入した場合とで、差異は見られません。




次に、間隙水圧分布の変化を見てみます。注入工の存在により、トンネル周囲の間隙水圧は上昇しますが、壁面から離れた領域に注入工を施した場合では、トンネル周囲の間隙水圧が幅広い領域で低い状態となります。これは、注入域で地下水の流れが制限されて、注入域の内側で間隙水圧の低下を招くことによります。


次に、地盤の破壊に対する安全率を見てみます。破壊条件はモールクーロン型とし、物性値は前回同様です。
図6に得られた安全率分布を示します。壁面に沿った注入では、トンネル下部で安全率が0となっている領域も見られます。これは、トンネル下部で有効最小圧縮応力が正(引張)となる領域が生ずることに原因があります。一方、壁面から離れた領域の注入では、トンネル下部で安全率が低い領域はなく、それ以外の領域でも安全率が低い領域が小さくなっています。
これは、図7に示すように、トンネル周囲の有効最小圧縮応力が全体的に大きくなっているためで、壁面から離れた領域への注入の効果により、トンネル近傍の間隙水圧が幅広く低下していることに起因しています。




今回は、トンネル壁面から離れた領域に注入工を施す方法を検討しました。この結果、トンネル近傍に間隙水圧の低い領域が形成され、トンネル周辺地盤の安全率が向上することがわかりました。
このように、湧水や地表面沈下を抑制する効果のある注入工ですが、工夫しだいでトンネル周辺地盤の安定性を向上させることができることもわかります。