技術資料
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第9回 トンネル掘削と地表面沈下(4)
これまで見てきたように、湧水や地表面沈下を抑制する効果のある注入工ですが、条件によっては注入工の領域内で地盤のせん断破壊や引張破壊が生ずる可能性があることがわかりました。
今回は、このような悪影響を回避する方法について検討してみたいと思います。
最初のアイデアは、引張破壊が生ずるトンネル下部の注入を行わないことです。これまでの検討では、トンネル下部において、注入による間隙水圧の増加によって有効最小圧縮応力が引張となり、引張破壊が生ずる可能性があることがわかっています。そこで、この部分だけ注入を行わないこととし、その場合に湧水や地表面沈下の抑制効果がどうなるかを、解析によって検討してみます。
解析モデルを図1に示します。モデルの寸法や物性値、境界条件などは、前回と同じです。
また、注入工を施した領域では地盤の剛性と同じとし、透水係数として地盤に比べ一桁小さな値を用いました。
解析では、トンネル掘削後十分な時間が経過した後に、トンネル下部を除いた領域に注入を行い、定常状態と見なされる時間での地盤の挙動を調べました。

最初に、定常状態における地下水面の位置を、全周注入した場合と比較してみましょう。下部が非注入の場合は、全周注入に比べ地下水位は低下していることがわかります。


地表面沈下の変化を図3に示します。ただし、掘削時の変位からの増分です。全周注入に比べ、下部非注入では地表面沈下が大きくなっています。
このときのトンネル断面の変位を、図4に示します。トンネル断面の変形には、全周注入と下部非注入で大きな差は見られません。




図4 トンネル断面の変位(単位:m)
次に、間隙水圧分布を比較してみます(図5)。全周注入の場合は、注入域内で急激に間隙水圧が低下しているのに対し、下部非注入では、間隙水圧が低下している領域が幅広く分布しています。
図6に示す地下水流速ベクトル分布を見ると、下部非注入領域で流速が大きくなっていることがわかります。これにより、トンネル周囲の間隙水圧の低下が引き起こされていることがわかります。




次に、地盤の破壊に対する安全率を見てみます。前回同様に、破壊条件はモールクーロン型とし、安全率は応力のせん断成分とこれに抵抗する成分の比とします。有効最小圧縮応力σ1’が正の場合は、引張破壊が生ずると考え安全率は0とします。

ここに、Cとφはそれぞれ排水条件で計測された粘着力と摩擦角です。
安全率を求めるにあたっては、C=0.2MPa、φ=30°としました。
図7に安全率分布の比較を示します。全周注入で見られていたトンネル下部の安全率の低い領域は、下部非注入では狭くなっていることがわかります。これは、図8に示すとおり、トンネル下部で間隙水圧が低下するため、有効最小圧縮応力が大きくなるためです。
トンネル周囲の安全率も、全周注入に比べ下部非注入ではやや高くなっています。


図7 安全率分布


今回は、注入工の領域内で地盤のせん断破壊や引張破壊が生ずる可能性を減ずる方法として、トンネル下部を非注入とすることを検討してみました。これにより、トンネル周囲の安全率はやや上昇し、下部に見られた引張破壊領域が小さくなることがわかりました。一方で、地表面沈下を湧水の抑制効果は小さくなることもわかりました。
次回は、これらの問題を解決する方法を提案します。