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第3回 理論最大加速度と計測最大加速度の相関

担当:里 優
2019.03

前回は、中小の地震時における地盤や構造物の揺れから、大地震時の揺れを推定する方法を検討しました。この方法では、地震時に加速度センサ設置位置で得られた計測最大加速度と、距離減衰式を用いて算定された理論最大加速度の相関図を作成した上で、理論最大加速度に対する計測最大加速度の倍率を求めます。

では、実際に理論最大加速度と計測最大加速度との間に相関があるのでしょうか。また、理論最大加速度に対する計測最大加速度の倍率は、どのような値となるのでしょうか。これらを、防災科学技術研究所のK-NET(全国強震観測網)のデータを用いて検討してみます。

K-NETでは、自由地盤上に設置された地震計で計測が行われています。このうち幾つかの地点を選び、計測された強震記録について、理論最大加速度と計測最大加速度との相関図を描きました。ただし、計測地点と震源との距離が200km以下の強震記録を抽出しました。最大加速度、震源との距離、マグニチュードは、K-NETよりダウンロードしたデータをもとに算定しました。

具体的には、次のような手順により相関図を描くとともに倍率を求めました。

  1. 選定したK-NETの計測地点で、地震ごとに得られた最大加速度を計測最大加速度とします。
  2. 次に、それぞれの地震について、震源の深さD、マグニチュードMより、距離減衰式を用い計測地点での最大加速度Aを求め理論最大加速度とします。距離減衰式には、下式に示した司、翠川1)の回帰式を用います。式中のXは断層最短距離ですが、計測地点と震源との距離で代用します。また、マグニチュードは気象庁マグニチュードを用いることとしました。
数式
  1. 理論最大加速度を横軸に、計測最大加速度を縦軸にして、得られた値をグラフ上にプロットします。
  2. 抽出した地震全てに対しこの操作を繰り返し、相関図を得ます。
  3. 原点を通る直線回帰式により、理論最大加速度に対する計測最大加速度の倍率を求めます。

選定した4つの地点について、作業の結果得られた相関図と回帰式および決定係数R2(相関係数の二乗に相当)を下図に示します。それぞれの地点において、ばらつきはあるものの理論最大加速度と計測最大加速度には良い相関が認められます。また、回帰直線の傾きが表す倍率はそれぞれの地点で大きく異なっています。この違いは、計測地点の表層地盤の振動特性によるものと考えられることから、倍率により地盤の揺れやすさを評価できることが示唆されています。

選定した4つの地点での作業の結果得られた相関図と回帰式および決定係数R2(相関係数の二乗に相当)をグラフ化

参考文献
1)司宏俊,翠川三郎:断層タイプ及び地盤条件を考慮した最大加速度・最大速度の距離減衰式,日本建築学会構造系論文集,第523号,1999,pp.63-70.
※資料等最終参照日:2019年3月

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