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やわらかサイエンス
国境の島々 対馬・壱岐・五島列島 ~鎖状に浮かぶ五島列島~(後編)
五島列島は、大陸との間の東シナ海に福江島、久賀島、奈留島、若松島、中通島の5つの島を中心に150余りの島々が連なる、長崎市から西に100㎞に位置する島々です。
152の島からなる五島列島
五島列島は、北東側から南西側に80kmにわたって152の島々から構成されています。鎖状に連なった大小の島々は、連なった山々が海に沈んで、海上に出た部分が島として見えているそうで、溺れ谷となったリアス式海岸の地形だそうです。
五島列島の行政区は大変複雑で、一番大きい福江島を中心とする五島市、中通島と若松島を中心とする南松浦郡新上五島町、北松浦郡小値賀町、西海市に分かれています。大きく新上五島町の方を上五島、五島市の方を下五島と呼んでいます。
福江島の西端が日本海と東シナ海の境界なので、五島列島の海は東シナ海という表現が使われています。

右:主要都市からの五島列島へのアクセス(※パンフレット・五島列島 大陸との懸け橋(五島列島ジオパーク推進協議会事務局・五島市役所文化環境課内))
世界遺産・潜伏キリシタン
古くからキリスト教と関係の深かった長崎県には、キリスト教会が約130あるそうです。そのうち約50が五島列島にあります。五島列島には江戸時代のキリスト禁教令によってキリシタンが移り住んで信仰を守ってきました。今でも人口の1~2割がカトリック信徒です。そのような長崎県と熊本県の天草地方に残る12のキリシタン関連遺産から構成されるのが、世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」です。
私たちは一般に、「潜伏キリシタン」よりも「隠れキリシタン」という言葉になじんでいます。
キリスト教が我が国に伝来してからは、伝来した1549年から宣教師がいなくなる1644年までの約100年間、その後のキリスト教禁止から禁止が撤廃された1873年までの約230年間、撤廃されてから今日までの3つの歴史的な区分があるそうです。
禁教となる前と禁教が撤廃された後は、キリシタンは隠れる必要のない時期なので総称して「隠れキリシタン」という言うのは相応しくなく、禁教の状況を言うのであれば「潜伏キリシタン」が相応しいということです。
世界遺産もこの禁教の時代、宣教師などの指導者が全くいない状況の中、約230年にもわたってキリスト教を守り続けた世界でも極めて稀な信仰文化が認められたものなのです。

中:中ノ浦教会の祭壇
右:頭ケ島天主堂外観
五島列島とジオパーク
五島列島の海岸線沿いに移動すると風光明媚な場所がたくさんあります。さまざまな地形や地質が生み出すダイナミックな自然の造形もその1つです。 五島列島の大部分の地質は、五島層群とよばれる新第三紀中新世に堆積した砂岩、泥岩、安山岩質凝灰岩などで基盤層ができており、これに花崗岩類の火成岩が貫入しています。そのため大部分が花崗岩、あるいは大部分が堆積岩(五島層群)から形成されている島もあります。

火山活動でできた玄武岩類は、福江島の南東部(福江)、北部(岐宿)、北西部三井楽)、南部に分布しています。
日本列島は、中新世前期までアジア大陸に繋がり、その東端の部分に淡水湖が点々と分布していましたが、2100万~1100万年前には繋がりの断裂が大きくなり、この断裂に向かって、大陸起源の大河により砂泥、砂礫が運搬され徐々に堆積していきました。このように堆積した砂泥、砂礫が五島層群の生成要因となっています。
その後、地殻変動による褶曲運動、断層運動、マグマの貫入があり、沖縄トラフの活動の影響により形成されたと考えられる断層が発達して、五島列島の主要な島々を分離する瀬戸となっています。

右:鬼岳(※と同じ)
五島列島のまぐろ養殖
五島列島の水産業は総生産額では五島全体の約7%、第1次産業の72%、県全体の水産業の23%を占めている基幹産業です。まき網漁業、刺網漁業、たこつぼ漁業、一本釣り漁業、延縄漁業等の漁船漁業と定置漁業、魚類や貝、藻類等の養殖漁業が営まれています。
しかし魚価の低迷や燃油高騰等によるコスト増大により漁業生産は伸び悩んでいます。そのためブランド化や加工品開発、地産地消を促進し、漁業所得の向上に取り組む必要があり、その一環として始められたのが、くろまぐろの養殖です。生産量は増加して、国内最大級の養殖産地となっています。
くろまぐろ養殖は、近大マグロとして有名です。近大マグロは稚魚を天然から捕獲して養殖した畜養マグロではなく、養殖施設で人工孵化した完全養殖のマグロです。その養殖産業の中核施設が、2010年に五島列島福江島に設立されたツナドリーム五島です。
後編として、「鎖状に浮かぶ五島列島」を紹介しました。歴史的建造物や自然の地形や風景など見所の多い五島列島ですが、まぐろを始め海産物の恵みも大変豊かな島です。
国境の島々 壱岐・対馬・五島列島 は如何でしたでしょうか。壱岐・対馬・五島列島、どこに行っても興味深々で楽しい旅行になるはずです。是非一度国境離島を訪ねてみて下さい。