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やわらかサイエンス
国境の島々 対馬・壱岐・五島列島 ~豊かな農地が美しい壱岐~(中編)
壱岐は一番大きな壱岐本島と周囲の有人無人の23の島からなり、長崎県壱岐市です。弥生時代に海上交易で王都を築き、その遺跡がある島です。
四角く平たい島
壱岐は九州から約20 kmで、その間は壱岐水道と呼ばれています。朝鮮半島側には対馬海峡を挟んで対馬があります。壱岐(本島)は南北17 km、東西14 km程度で面積が139平方キロメートルの大きさの四角い島です。対馬同様に海岸線が入り組んでいるため、長い海岸線を持っています。対馬と違って島内に高い山は無く、標高が200m余の岳ノ辻が最高峰です。したがって平地が多い島です。

右:壱岐市全島マップ
豊かな農地の島
平たい島、壱岐島は長崎県の面積の3.4%ですが、耕地面積は3,430haと島の面積の25%に相当しており、長崎県の耕地面積の7.5%にもなっています。また耕地の63%は水田で2,200haとなっています。
壱岐島に広がる平野(深江田原(ふかえたばる)など)の広さは、長崎県県内で第2位となっています。比較的温暖な海洋性気候で、年平均気温は約16℃、年間降水量は約1,900㎜の条件のもと、水稲、麦、大豆、葉たばこ、飼料作物などの土地利用型作物栽培をはじめ、施設園芸(アスパラガス、いちご、メロン)や露地野菜(ブロッコリー)、花き(小ぎく)などとの複合経営が盛んです。

右:整備された水田の様子(令和6年度長崎の農林業・大区画に整備した水田地帯(壱岐市)より抜粋)
壱岐島の豊かな農地からは麦も多くとれます。この麦を使ったものが、有名なむぎ焼酎壱岐です。むぎ焼酎壱岐は、原料として米麹1/3に対して大麦2/3を使用した壱岐独特の製法で、麦の香りと米麹を使用することによる天然の甘味が特長の本格焼酎で、伝統的なかめ貯蔵をはじめ樫樽やタンクで熟成された貯蔵熟成酒が多いという特長があります。
縄文・弥生時代の遺跡が残る島
壱岐島には旧石器時代後期のヒトの痕跡としていくつかの石器が発見され、縄文時代の遺跡として郷ノ浦町片原触吉ヶ崎遺跡が残されています。弥生時代には、ほぼ島全体に人が住んでいたと考えられています。河川の流域に遺跡が多く、遺物もたくさん見つかっています。
弥生時代の遺跡では、壱岐島で一番広い平野である深江田原(ふかえたばる)に原の辻遺跡があります。ここは長崎県内有数の穀倉地帯で、復元された遺跡は突如として弥生時代の風景が現れたようです。
原の辻遺跡は、弥生時代から古墳時代の初めに栄えた環濠集落跡です。中国の史書である三国志の中の魏志倭人伝に、壱岐島は一支国として登場しています。その中で3,000もの家があったとの記述があり、弥生時代における政治経済の拠点であったとみられています。

原の辻遺跡と共に栄えた環濠集落として、カラカミ遺跡があります。ここは交易を通じて鉄製品や鉄素材を入手して、交易や鉄器生産などで本土に鉄製品を供給する重要な役割を果たしていたそうです。また国内最古となるベンガラ焼成炉やベンガラを使用して彩られた土器が多数見つかっており、カラカミ遺跡は先端技術産業の集落であったようです。
また発掘調査では、イノシシやシカなどの骨と一緒にイエネコの骨が発見されました。イエネコの起源は、8世紀に経典などの書物をネズミの害から防ぐ目的で遣唐使が中国大陸から持ち込んだ説が一般的でした。今回の発見でその起源が弥生時代まで500年遡りました。
これまでイエネコの骨の出土資料は13世紀(鎌倉時代)のものでしたが、今回の資料で約1,000年も古く、最古の記録を更新しました。もしかしたら日本のイエネコ発祥の地かもしれません。

日本最古イエネコ骨、線刻文字土器 「カラカミ遺跡の全貌展」で展示 1月9日まで 一支国博物館記事より抜粋
その後、横穴式石室墳群、前方後円墳はなどの古墳時代を経て、律令制のもとで壱岐国が置かれ波乱の中世になります。
玄武岩で覆われた島
壱岐島は第三紀の堆積岩(壱岐層群と呼ばれる砂岩、泥岩、礫岩、凝灰岩など)が広く分布した上に玄武岩類が地表部を覆った溶岩台地となっています。玄武岩類は玄武岩溶岩と同質の火砕岩で、玄武岩溶岩は主にアルカリ岩系のアルカリかんらん石玄武岩だそうです。
玄武岩の溶岩台地は、亀裂が発達し風化した層から成り、壱岐島の主要な帯水層となっています。またアルカリ岩系であることから、風化してできる土壌は肥料成分となる元素を多く含んでいます。この水や養分に恵まれていることも、壱岐島が豊かな農地となっている要素の1つです。

中:火成岩の柱状節理が見られる様子
右:有名な猿岩
中編として、「豊かな農地が美しい壱岐」を紹介しました。自然豊かな壱岐ですが、農産物の恵みも大変豊かな島です。特に牛肉とむぎ焼酎は大変好評です。後編では「鎖状に浮かぶ五島列島」を紹介します。