技術資料

やわらかサイエンス

国境の島々 対馬・壱岐・五島列島 ~尖った山、高い山の多い対馬~(前編)

担当:藤原 靖
2025.05

朝鮮半島との間に飛び石のように浮かぶ壱岐と対馬、大陸との間の東シナ海に鎖状に浮かぶ五島列島は、いにしえより、日本と大陸を結ぶ「海の道」の要衝であり、大陸との交流のインターフェースでもありました。とりわけ、朝鮮半島と指呼の間にある国境の島、壱岐と対馬は、その最前線でした。

南北に細長い島

対馬は、南北82km、東西18km、面積約700平方キロメートルの細長い島で、100を超える属島を含めて長崎県対馬市となっています。人が住んでいる島は、主島、泊島、赤島、沖ノ島、鳥山島、海栗島の6島で、海栗島以外は橋や埋め立て地盤の道路で結ばれています。
東側約132kmに九州本土、西側約50kmに朝鮮半島があり、目の前が韓国の釜山で、まさに大陸の方が近い地理的関係にあります。

左:壱岐・対馬・五島列島の位置関係, 右:対馬全図(対馬観光物産協会・対馬まるわかりガイドブックより抜粋)
左:壱岐・対馬・五島列島の位置関係
右:対馬全図(対馬観光物産協会・対馬まるわかりガイドブックより抜粋)

主な地質

対馬の地質は大部分が対州層群(たいしゅうそうぐん)という日本海で形成された堆積岩からできています。形成された年代はおよそ3,000万年前とされていましたが、最近ではおおむね1,700万年前とされています。
対州層群は暗灰色~黒色の強く圧縮された泥岩で頁岩とも呼ばれます。砂岩と互層になった地層が見られ、対州層群の地層は褶曲して島のいたるところで様々な形を見せています。
また一部にはマグマの影響を受けた玄武岩、石英斑岩、花崗岩などの火成岩の岩盤や熱変成を受けた硬いフォルンフェルスの岩盤があり、これらが500~650mm級の山地を形成しています。

左:島のいたる所で見られる堆積岩の様子、右:硬い岩石でできた尖った山々(画像の奥の山並み)の様子
左:島のいたる所で見られる堆積岩の様子
右:硬い岩石でできた尖った山々(画像の奥の山並み)の様子

大陸と対馬の交流

対馬は古くから大陸との交流があり、魏志倭人伝では倭(古い時代のヤマトなどを含め日本や日本人を示す言葉)の1つの国として登場しています。古墳の形式も前方後円墳でヤマトとの関係が深く、大化の改新後の律令制では大宰府の管轄下におかれ、遣隋使や初期の遣唐使の主要な基地でした。
一方で大陸の勢力の侵攻の懸念が大きいため、万葉集に残る防人(さきもり)の歌で有名な防人がおかれ、城が築かれ国境防御の前線となりました。10世紀に入ると侵攻が活発化し、13世紀にはついに2度の元寇が起き、対馬は最初の攻撃目標となり多くの犠牲者を出しました。
豊臣秀吉の時代になり朝鮮出兵を行ったため国交が断絶し、15世紀以降は宗氏を中心に善隣政策に転じ、特に江戸時代最初の朝鮮通信使来日による日朝修好の成功は、その後約200年に渡り合計12回の日朝交流の架け橋となりました。
明治期からの近代では、日露戦争や太平洋戦争での対馬海峡の戦略的な重要性が注目され、戦後の朝鮮戦争を経て韓国との外交関係において、対馬及び対馬海峡は依然として重要性が増しています。

対馬の自然と生活

対馬の面積の9割を山林が占めています。原生林は広葉樹である照葉樹林ですが、林業のための針葉樹林も多くあります。動植物は位置的関係で、大陸系、対馬固有、日本本土系の3つが見られるという特長があります。対馬の固有種・固有亜種としては、ツシマヤマネコ、ツシマジカ、ツシマコゲラ、ツシマスベトカゲ、ツシマアカガエル、ツシマヒベボタルなど数多くあります。そのため鳥獣保護区や野生生物保護センターなどが設置されて、海域を含めて自然環境の保護が進められています。

対馬は第一次産業の割合が20%弱と高く、農林水産業、特に漁業が主要な産業となっています。イカやブリなどの漁や定置網漁業、サザエやアワビなどの貝類やヒジキなどの海藻類の採取、マグロや真珠の養殖業が盛んで、アナゴの水揚げは全国一です。真珠の養殖が非常に盛んにもかかわらず伊勢志摩などの他の地域が有名なのは、対馬では真珠の加工をしていないためだそうです。農業は平地が少ないため島内では野菜や米などの生産量が少なく、島外の生産地に依存してます。林業が盛んで、ヒノキは対馬ひのきとしてブランドとなっており、木材生産により良質な原木しいたけの生産地となっています。

左:上空から見たリアス式海岸の様子,中:ツシマヤマネコの目撃地点,右:照葉樹林の森の中の様子
左:上空から見たリアス式海岸の様子
中:ツシマヤマネコの目撃地点
右:照葉樹林の森の中の様子

前編として、「尖った山、高い山の多い対馬」を紹介しました。対馬は海もきれいで釣りやマリンスポーツもできますが、トレッキングも盛んな島です。またツシマという名前のついた固有種・固有亜種も多い独特な動植物の多い島でもあります。中編では「豊かな農地が美しい壱岐」を紹介します。

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