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やわらかサイエンス

レアメタル・レアアース その1 -レアだけに貴重です-(後編)

担当:藤原 靖
2023.08

前編ではレアメタル・レアアースとはどのような鉱物資源であるか、中編ではどのような産業分野で使われているかについて紹介しました。後編では、レアメタル・レアアースの産出が地球上で偏在していることに注目してみます。

偏在していて取扱いに注意

レアメタル・レアアースの産出にはいくつかの特徴がありますが、最大の特徴は産出する国が限定されている(産出する場所が偏在している)ということです。レアメタル・レアアースを必要としている国は、限定した産出国に非常に強く依存することになります。またレアメタル・レアアースは、経済的には市場が小さく価格変動が大きいという特徴があります。したがって製造コストが変動することになります。

このようにレアメタル・レアアースには経済的な不安定要素があるため、必要とする国は、安定的に入手する方策を講じる必要があります。不安定であれば国の経済活動に大きな影響を及ぼします。このことは、エネルギーや食糧についても同じことが言えます。経済安全保障、中でも資源によって国の基幹産業の命運を他国に握られることのないための資源安全保障としての安定供給が肝心です。
しかし、現実的には主要な産出国にはイデオロギーや外交政策が異なる大国が目立ちます。また新興国も多く、ナショナリズムの考え方の違いや社会経済的に不安定な懸念要素が多くあります。

代表的なレアメタル鉱種と上位の産出国
代表的なレアメタル鉱種と上位の産出国

レアメタルの産出の特徴として、他の鉱物の副産物として生産される場合が多いことがあげられます。例えばコバルトは銅とニッケルの副産物、インジウムは亜鉛の副産物、ガリウムはアルミニウムと亜鉛の副産物です。そのため、主産物の生産動向にレアメタルの生産が影響されるという問題があります。

またレアメタル・レアアースは、ベースメタルに比べ含有量が低い場合が多いことがあげられます。つまり、目的としない成分が非常に多く含まれているということです。このことは環境保全の面で非常に重要です。
ベースメタルの採掘の場合と同様に地形改変、自然生態系の減少、土壌・地下水・地表水などの汚染など、環境保全対策が必要なのはレアメタル・レアアースも同様です。
特にレアアース鉱石の品位(含有量)は、数100ppmオーダーです。100ppmだと100分の1パーセントしか鉱石に含まれていません。99.99%が不要なものですので、これを適切に処理しなければなりません。産出国から別な国に運んで違法に製錬するようなロンダリングも行われているそうです。

天国に一番近い島として有名なリゾート地であるニューカレドニアは、フランス海外領土でありニッケルの主要産出国です。世界ではロシア、カナダに次ぐ生産量を誇り、埋蔵量はオーストラリアに次いで世界2位です。
最南部は、植物の固有種の率が非常に高く、灌木、森林、河川、湿地帯などがあり、周辺海域は世界遺産にも指定され、多種多様な魚類だけでなくジュゴン、ウミガメ、クジラが生息するなど生物多様性の豊かな地域が広がります。
しかし固有種の多い貴重な森林の減少、硫酸の大量使用などによる精錬関連の環境影響、廃硫酸を含む廃棄物問題、土砂掘削による美しい珊瑚礁への赤土流出問などが起こっています。また地元の先住民族の生活や文化も脅かしています。

ニューカレドニアのニッケル製錬工場の全景(左)と川の汚染状況(右)
ニューカレドニアのニッケル製錬工場の全景(左)と川の汚染状況(右)
((一財)地球・人間環境フォーラム 持続可能な原材料調達緊急報告:危機に立つ生物多様性より抜粋)

レアアース鉱石は多くの場合、トリウム232やウラン同位体などの放射性物質を含有しており、その採掘や製錬の過程で放射性廃棄物が大量に発生します。実際に放射性廃棄物の管理不備によって、近隣住民や従業員などに健康被害が発生しています。

中国の内モンゴル自治区にあるバイユンオボ鉱床は、中国の主要なレアアースの生産拠点です。郊外にはレアアース湖と呼ばれる湖がありますが、周辺では採掘の影響と考えられる環境影響や住民の健康被害が発生しています。
レアアースは地中では、天然の放射性元素であるトリウム(天然では実質的にトリウム232だけからなる天然放射性元素)と結合して存在していることが多いため、レアアースを選鉱する際には強い酸などを使います。したがって廃棄物には、放射性のトリウムや強い酸が含まれるので、適正な処理や厳重な管理が必要です。
公害による健康被害は、因果関係の証明などが難しい問題がありますが、健康被害が多発しているのは紛れもない事実です。

レアメタル・レアアース その1 -レアだけに貴重です- はここまでです。貴重なレアメタル・レアアースだけに安定的に使用できることが重要です。その対応策としては、供給源を多角化する、備蓄をしっかりする、リサイクルをきちんとやる、代替材料を開発するなどがあげられます。こちらについては、第二部として、レアメタル・レアアース その2 -安定供給が肝心- で紹介します。

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