技術資料

やわらかサイエンス

輝く砂粒 -砂粒の資源-(中編)

担当:藤原 靖
2023.01

前編では、日本の砂白金について紹介しました。このような砂粒の資源は、文字通り砂粒なので、他の砂粒にわずかに混じっているだけでは、まさに砂漠の砂の中から金を拾うようなものなので見つけることができません。 そこで同じような種類の砂粒が集まった場所があれば容易に発見できます。実はそのような場所があるのです。

砂粒の資源は流浪の民

岩石に含まれる金属を主要な成分とする鉱物が風化の過程で岩石から分離して、土砂の浸食、流出、運搬、堆積などの過程を経て、石英などの他の鉱物の砂粒と混じりながら同じ種類の砂粒の割合が多く堆積した場所があります。砂粒の資源の鉱床で、漂砂鉱床あるいは堆積鉱床などと呼ばれています。
漂砂鉱床あるいは堆積鉱床では、金属では金などの元素鉱物、磁鉄鉱などの酸化鉱物、ダイヤモンドなどの宝石が濃集(通常の含有量よりも多く集まった状態)しています。

左:上流の鉱石が風化、侵食、運搬、堆積で河床の岩盤の窪みに溜まる漂砂鉱床の1つのイメージ、右:第3のダイヤ(海底ダイヤ)の採取のため浮かぶ作業船の様子を上空から見たもの
左:上流の鉱石が風化、侵食、運搬、堆積で河床の岩盤の窪みに溜まる漂砂鉱床の1つのイメージ
右:第3のダイヤ(海底ダイヤ)の採取のため浮かぶ作業船の様子を上空から見たもの

金属では、砂金(Au・比重19.32)、砂白金(Pt・比重21.45)、砂鉄(Fe・7.87)、砂スズ(Sn・7.30)、砂ジルコン(Zr・比重6.52)、砂ルチル(Ti・比重4.51)などがあります。代表格の砂金はカリフォルニアのゴールドラッシュが有名ですが、世界各地のゴールドラッシュの多くの初期段階で開発された主な鉱脈は、漂砂鉱床に由来するものだそうです。
大規模な堆積鉱床としては、1886年に発見された南アフリカのウィットウォータ一スンドの含金礫岩層が有名です。ここは世界最大の金鉱床地帯で、現在までに約4万トンの金が採掘されました。この量は有史以来の全世界金総生産量の50%に相当する膨大な量と言われています。

左:洗浄プラントによる砂金を含む土砂からの砂金回収(土砂の投入の様子)右:同上(流水による洗浄分級の様子)左右いずれもディスカバリーチャンネルGOLD RUSHのスクリーンショット
左:洗浄プラントによる砂金を含む土砂からの砂金回収(土砂の投入の様子)
右:同上(流水による洗浄分級の様子)
左右いずれもディスカバリーチャンネルGOLD RUSHのスクリーンショット

砂スズは、錫石の小さな粒で化学組成は酸化スズ(IV)です。錫石の比重は6.9と大きく、河床などに砂錫鉱床をつくるため、錫石鉱脈のある地域の河川堆積物が砂スズの鉱床となります。マレー半島を中心にタイ、中国、インドネシアに砂錫鉱床があります。

宝石では、砂ダイヤモンド、砂ルビー、砂サファイア、砂ガーネットなどがあります。代表格の砂ダイヤモンドでは、インドとブラジルの古い産地のものが漂砂鉱床に由来するもので、大粒で高品質な原石が多く産出しているのが特徴だそうです。このような原石のうちダイヤモンド原石はRIVERと呼ばれるそうです、漂砂鉱床と関係の深い「川」から由来しているようです。

このようなダイヤモンドは第1のダイヤです。第1のダイヤは陸上の鉱山で採掘して採取する天然のダイヤですが、採掘による地形改変や児童労働など、さまざまな問題が発生しています。
第2のダイヤは合成のダイヤです。合成のダイヤは、切削・研磨などの工作機械、光学や半導体分野で利用されていますが、宝石としても使われます。しかしダイヤの合成には大量の電力が消費されことや希少性が低いことなどから、人気は今一です。
ごく最近になって、第3のダイヤ、海底ダイヤ、オーシャン・フロア・ダイヤモンドと呼ばれる砂ダイヤモンドが注目されています。陸上の川ではなく海で見つかるダイヤモンドです。
第3のダイヤは天然のダイヤで、南アフリカ周辺の水深10~15mの海に潜水して砂利を吸い上げて手作業で採取するそうです。第3のダイヤは、地形改変、エネルギー消費、人権問題などで調和のとれたエシカル消費として注目され、品質に優れているため価格は第1のダイヤの2~3倍だそうです。

エシカル
英語で「倫理的な」という意味ですが、「法的な縛りはないけれども多くの人たちが正しいと思うことで、人間が本来持つ良心から発生した社会的な規範」を根底にして「人や地球環境、社会、地域に配慮した考え方や行動」のことを指します。形容詞なので様々な名詞と組み合わせ、その意味が多様に広がります。例えば、「地域の活性化や雇用なども含む、人や地球環境、社会に配慮した消費やサービス」のことを「エシカル消費」と言います。
(一般社団法人エシカル協会より引用要約)

 残り物には福がある

漂砂鉱床や機械的な堆積鉱床とは違って、化学的な溶脱作用などで他の成分が抜けて、有用な鉱物が地表に残留した「残留鉱床」あるいは「風化残留鉱床」というものがあります。こちらは必ずしも砂粒とは限りませんが、アルミニウム資源のボーキサイト鉱床やニッケル鉱床が代表的なものです。

ボーキサイト鉱床は、閃長岩(せんちょうがん)のように石英をほとんど含まずアルミニウムの多い鉱物からなる岩石から、カリウム、ナトリウム、カルシウム、ついでマグネシウムと鉄、さらにケイ素が溶脱して、アルミニウムが残留した結果、アルミニウムの濃度が数パーセントから数十パーセントに相対的に濃縮してできたものです。
ニッケル鉱床は、超塩基性岩のように橄欖石(かんらんせき)や輝石を多く含む岩石から化学成分が溶脱して、もともとのニッケル成分が0.2パーセントくらいであったものが1パーセント程度に濃縮したものです。
その他に金属資源ではありませんが、磁器の原料粘土などとして重要なカオリン粘土などの陶土の風化残留鉱床があります。

左:マレーシアのジョホール州の鉱山で採掘されたボーキサイト・Web山口大学工学部学術資料展示館(堆積鉱床)、右:フィリピンのニッケル鉱床(青灰色の部分)・実松健造、鉱床の成因研究と探査への応用、産業総合技術研究所鉱物資源グループ、2017
左:マレーシアのジョホール州の鉱山で採掘されたボーキサイト
・Web山口大学工学部学術資料展示館 (堆積鉱床)
右:フィリピンのニッケル鉱床(青灰色の部分)・実松健造、鉱床の成因
  研究と探査への応用、産業総合技術研究所鉱物資源グループ、2017

中編では砂粒の資源として重要な鉱床のでき方について、浸食、流出、運搬、堆積といった機械的な過程でできるものと化学的な溶脱の過程でできるものについて簡単に紹介しました。
後編では、砂粒の資源として代表格の砂鉄の採取と製鉄について紹介します。

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