技術資料

やわらかサイエンス

盛土 -水と粒と地産地消とルール順守が大切-(前編)

担当:藤原 靖
2021.09

2021年7月3日午前10時半ごろに、線状降水帯による豪雨により、静岡県熱海市伊豆山地区の逢初川で大規模な土砂災害が発生しました。その後の発生原因の調査で、起点となった場所の盛土に問題があったことが指摘されました。今回はこの盛土について見てみたいと思います。

■盛土はシンプルな土木技術

誰もが砂場や土いじりで土を盛って遊んだことがあると思います。盛土は周囲よりも標高の高い地面を作るため、平坦な地面を作るためなどに用いられる土木技術の1つです。身近なものでは、周囲よりも標高を高くして洪水時に水が溢れないようにする川の堤防、土手があり、標高の低いところに盛ったり埋めたりする埋立てがあります。
土を盛るためにはどこからか土砂を持って来なくてはなりませんが、一番好都合なのは斜面です。斜面では土を削って盛る、切土と盛土で平坦な地面ができます。

左:傾斜地の切土盛土による宅地造成のイメージ、右:傾斜地で造成された宅地(上)、切土盛土で作られた美しい棚田(下)
左:傾斜地の切土盛土による宅地造成のイメージ
右:傾斜地で造成された宅地(上)、切土盛土で作られた美しい棚田(下)

切土と盛土は高速道路や鉄道の建設、山や丘などの土地を宅地や工業団地にする土地造成で一般的な方法です。切土は、元の地盤を削るので地盤は全体的に均質で締まっていますが、盛土は、元の地盤の上に土を盛るため、どうしても弱点があります。
その1つが元の地盤と盛土部分とが2つの層に分かれていることです。境目を無くしておかないと、斜面ではその境目がすべり易くなり崩れることがあります。地震が起こると振動で滑り、建物の基礎を支持できなくなることもあります。
もう1つが盛土の土は隙間ができやすいということです。隙間の少ない密実な盛土にしておかないと雨水の浸透にともない土が締まるため、徐々に空洞が生じて建物を支える力が弱まる、盛土そのものの重みや建物の重みで凸凹に沈んでしまう(不同沈下)などの問題が発生します。そこで生活には欠かせない盛土ですが、盛土の問題を解決するために様々な工夫がされています。

■丈夫な盛土を作る

盛土の材料は土砂です。しっかり土を盛るには、この土砂をしっかりと突き固めます。これを締固めと言います。締固められた土は強さがあり、押されても変形しにくいことが重要な性能になります。
この締固めという技術では、水が重要な要因になっています。土は、土粒子(固相)と水(液相)と空気(気相)から構成されています。削ったり掘ったりした土はほぐれているので、ただ土を運搬して盛っただけでは空気を多く含んでいます。
これでは、土自体の重さや道路や建物の重さで沈んでしまいます。また、河川の堤防などでは、空気のある部分は隙間ですから水の通りが良すぎてしまい、水の浸透を防ぐという堤防としての目的が果たせません。
そこで、空気を追い出し、土を密実なものとし、密度を増加させ、均質性を増し、最も強度の得られる状態に土を締固めるという作業を行います。

左:重しの槌や柱を滑車で上げては落とすことを繰り返す土の締固め作業(ヨイトマケ)
中:道路工事でよく見かけるタンピングランマーでの作業              
右:振動ローラー(乗用・タンデム型) 
左:重しの槌や柱を滑車で上げては落とすことを繰り返す土の締固め作業(ヨイトマケ)
中:道路工事でよく見かけるタンピングランマーでの作業
右:振動ローラー(乗用・タンデム型) 

中編では締固める時には土の水が重要なポイントで、土の粒径によっても性質や取り扱いが違ってくることを紹介します。

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