技術資料

やわらかサイエンス

穴あきダム -防災と環境保全のはざまで-(前編)

担当:藤原 靖
2021.01

2020年7月4日に熊本県の球磨川(くまがわ)流域で集中豪雨災害が発生し、多くの人命が失われました。球磨川流域は長年にわたって治水対策に苦労してきた地域です。災害の後、各種報道では、12年前に中止された川辺川ダム建設計画の中止の是非や復活についての議論の再燃が紹介されました。その中で川辺川ダムを穴あきダムとして建設することを検討するとの報道がありました。

今回のやわらかサイエンスは、穴あきダムというあまり聞きなれないダムについて紹介したいと思います。

左:球磨村の山間狭窄部の流路の様子 右:人吉市の市街地の流路の様子(国土交通省ホームページ・九州の一級河川・球磨川よりより抜粋)
左:球磨村の山間狭窄部の流路の様子
右:人吉市の市街地の流路の様子(国土交通省ホームページ・九州の一級河川・球磨川よりより抜粋)

■球磨川流域

球磨川流域は、球磨川を本流として熊本県南部の人吉盆地を流れ、川辺川をはじめとする支流を合わせながら、八代平野に至り八代海(不知火海)に注ぐ一級河川です。球磨川は熊本県最大の河川で、源流から中流域のほとんどが狭隘(きょうあい)部を抜ける急流河川で、最上川・富士川と並ぶ日本三大急流の一つです。
流域内には、豊かな自然環境が多く残され、動植物も数多く生息しています。球磨川の源流部は市房山で、熊本県の天然記念物で九州特産のツクシアケボノツツジが生育しています。上流部は人吉・球磨盆地の田園地帯で、ゲンジボタルやカジカガエルなどが生息するような水域環境が残されています。中流部は、山間狭窄部で急流となっており、河岸は巨岩・奇岩が連続し、瀬と淵が交互に連続した地形となっています。河原にはツルヨシ群落、エノキやアラカシの高木林などの植生があり、ヒヨドリやサギ類の生息地となっています。下流部は八代市街地を流れ、高水敷(こうすいじき:流路より一段高い敷地でグラウンドや公園などに利用されている土地)はヨシ群落やヤナギ林が分布し、ヒバリやセッカ等の草地性の鳥類などの生息地となっています。河口部は八代海の感潮域で、環境省の日本の重要湿地500に選定されています。ハクセンシオマネキなどの干潟特有の生物が多く生息し、シギやチドリ類の渡りの中継地・越冬地となっています。

左:一級河川 球磨川流域図(国土交通省) 右上:カジカガエル 右下:ハクセンシオマネキ
左:一級河川 球磨川流域図(国土交通省) 右上:カジカガエル 右下:ハクセンシオマネキ

球磨川水系では、大きな支流は川辺川くらいで、小さな川が肋骨状に流れ込む水系となっています。そのため流域に雨が降ると球磨川本流の上下流全体で、水位の高い状態が持続するという特徴があります。また人吉盆地は狭窄部が40kmも続くため、水の流れが妨げられるという特徴があります。

このような背景の中で川辺川ダムは計画されていました。今回の豪雨災害をうけ、ダムがあった場合の試算として、洪水ピークや浸水範囲の何割かを低下することができたとの試算が出ています。しかし水害の発生自体は防止できなかったとしています。
それでも一定の洪水の抑制効果が認められるため、ダムの見直し案として提案されているのが穴あきダムというわけです。なお、球磨川には上流に市房ダム、下流に瀬戸石ダムと荒瀬ダム(撤去済)があります。荒瀬ダムについてまた後で紹介します。

穴あきダム -防災と環境保全のはざまで- の前編はここまでです。中編は穴あきダムについて少し詳しく見てみたいと思います。

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