技術資料

やわらかサイエンス

海で見る鳩 -山・海・岩の関係-(前編)

担当:藤原 靖
2020.11

海で見かける鳥と言えばカモメやウミネコを直ぐに思い浮かべます。その他にもたくさんいますが、水辺にいる鳥を観察するときは、飛んでいる鳥、泳いでいる鳥、歩いている鳥と大雑把に分けています。
鳥は飛びますが、これはその鳥を一番よく見かける光景で分けたものです。例えば、飛んでいる鳥はカモメやウミネコの仲間、泳いでいる鳥はカモの仲間、歩いている鳥はシギやチドリの仲間となります。

このような水辺でよく見かける鳥としては、普通は当てはまらない鳥で、海の岩礁で見かける鳥がいます。それがアオバトというハトです。ハトはありふれた鳥ですが、実はあまり知られていないハトもいます。
今回のやわらかサイエンスは、海の岩礁で見かけるアオバトについて紹介したいと思います。

左:神奈川県大磯町照ヶ崎海岸の岩礁のアオバト、右:沖縄県竹富島のズアカアオバト(台湾の亜種は頭部が赤いが日本のものは赤くない)
左:神奈川県大磯町照ヶ崎海岸の岩礁のアオバト
右:沖縄県竹富島のズアカアオバト(台湾の亜種は頭部が赤いが日本のものは赤くない)

■海で見かけるアオバト

神奈川県中郡大磯町の照ヶ崎海岸では、アオバトの群れを見かけることができます。5月から10月頃までで、特に夏の天気の良い日にたくさん飛来します。

照ヶ崎海岸には砂浜と磯があり、大磯港の港湾施設があります。港湾の堤防の上が、遊歩道として整備されているので、そこから周囲を展望することができます。
海側は砂浜の前に磯が広がっています。山側は西湘バイパスの向こうに大磯の丘陵が広がっています。直ぐ近くに見える松林は、エリザベス・サンダースホームの木々です。

エリザベス・サンダースホームは、第二次世界大戦後に進駐軍関係の孤児救済のため、岩崎弥太郎の孫である沢田美喜氏により岩崎家大磯別邸に乳児院として設立され、現在は児童養護施設として運営されています。

照ヶ崎海岸は「大磯照ヶ崎のアオバト集団飛来地」として、神奈川県の天然記念物に指定されています。一度に見られた最大の群れの数が500羽以上という記録があります。朝6時から10時までの観察の間に飛来した数は、のべ3000羽以上と言われています。

■アオバトが飛ぶ照ヶ崎海岸の地形

アオバトの群れが飛ぶ照ヶ崎海岸では、波食台(はしょくだい)とビーチカスプという地形が見られます。照ヶ崎海岸の岩石海岸部分では、水面下には現在生成されつつある波食台、満潮時にも気中にある波食台、さらに高い場所にある波食台があります。アオバトが海水を飲む場所は満潮時にも気中にある波食台になります。これは1923年の大正関東地震で1.7mほど隆起したもので、さらに高い場所は1703年の元禄地震で1mほど隆起したものとされています。
波食台は、海岸の岩畳や磯の台と呼ばれる平坦な岩石地形です。切立った海岸の崖も海岸浸食が進むと、崖がくずれて前面に波で平らに削られた岩盤の面ができてきます。大きな波食台としては、宮崎県の「鬼の洗濯板」が有名です。

満潮時にも気中にある波食台            さらに高い場所にある波食台
    満潮時にも気中にある波食台         さらに高い場所にある波食台

堆積海岸部分には、ビーチカスプと呼ばれる汀線付近に形成された凹凸地形が見られます。沖側に突き出した高まりの部分と陸側にへこんだ低まりの部分が交互に並んだ地形です。高まりの部分には中礫が堆積し、低まりの部分には細礫や砂が堆積しています。

左:潮が引く際にビーチカスプの形状が強調されよく分かる
右:凹凸部で明瞭な礫の大きさの違い(画像中央部が凹部で堆積物の粒径が小さい)
左:潮が引く際にビーチカスプの形状が強調されよく分かる
右:凹凸部で明瞭な礫の大きさの違い(画像中央部が凹部で堆積物の粒径が小さい)

海で見る鳩 -山・海・岩の関係- の前編はここまでです。
アオバトというハトはご存知でしたでしょうか。後編は、アオバトはどうして大磯の海に来るのかについて迫ってみたいと思います。

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