技術資料
やわらかサイエンス
ヨガもいろいろ -田谷の洞窟-(後編)
真言密教の修行の道場として田谷の洞窟が作られたのには、仏教活動が盛んな鎌倉という地域の影響が大きいことは言うまでもありません。もう1つ、この地域の地層の特徴も大きな役割を果していました。
洞窟を掘るには、人が限られた道具を使って掘ることができること、掘った空洞が安定していること、湧いてきた水で坑道が水没してしまわないことなど、いくつかの条件が必要です。その条件にマッチしたのが田谷とその地層です。
■田谷の地層
洞窟が掘られた地層は、第四紀(最近の260万年間)の地層の1つである長沼層です。長沼層は、半凝固青灰色の泥岩または黄褐色の砂層で、貝の化石を含んだ地層です。第四紀後期(数十万年前)の温暖な時期に土砂が堆積してできた地層とされています。
この地域は、多摩丘陵の南西部の柏尾川(位置図の鉄道に沿った川)一帯で、当時はかなり深い海だったそうです。海面上昇や地盤の沈降で海となったと考えられており、相模積成盆地と呼ばれています。長沼層からはイタヤガイなど、暖かい海にすむ貝の化石がたくさん出てきます。
長沼層は泥炭質な部分、火山灰質な部分を含み、上の層ほど泥質になっていきます。その層の中に15cm程度の厚さで、黒い2~5cmくらいの粒のスコリア層が挟まれています。田谷スコリア層と呼ばれる長沼層の下部を示す鍵となる地層です。田谷の洞窟が掘られた地層には、この田谷スコリア層が見られるため、長沼層の下部の地層であることが分かります。
スコリア:火山の噴火で噴き出たもので、色が赤黒くて小さな孔がたくさん空いた塊。火山灰や軽石の仲間。富士山の画像などで見かけるガサガサした塊。ガーデニングでも利用。
長沼層は柔らかいため、人力でも掘り易い地層です。その一方で、掘り易い地層は、乾燥するとボロボロと崩れやすい性質があります。この地域には湧水が豊富であったため、乾燥を防ぐことができたとされています。多孔質なスコリアは水分を浸透させることができるため湿気が保たれ、彫られた仏像が崩れることもなく残り、トンネルの空洞の保全にも効果的であったと考えられます。
■用賀もヨガ
東京都世田谷区に「用賀(ようが)」という場所があります。首都高速道路の用賀インターチェンジとして知られています。この用賀も瑜伽(ゆが)です。鎌倉時代初期に真言宗の瑜伽の道場が開設されたことが地名の由来とされているそうです。
新編武蔵国風土記にその由来があるそうです。江戸期の永禄・元亀年間(1558年~1573年)に後北条氏の家臣であった飯田帯刀とその息子の飯田図書が村を開発し、飯田図書が真福寺を創建したとあるそうです。またこの地には、「草分け七軒百姓」という言葉があり、信州飯田から菊地を名乗る三兄弟が共の者2人を連れてこの地に来て、飯田と名前を改めて土着して村を開発したといわれているそうです。
用賀は、大山街道の宿場町、真福寺の門前町です。大山街道は、赤坂御門から大山阿夫利神社までの参詣路で、現在は国道246号線として健在です。
■ヨガを医学的に
医療の分野に「統合医療」というものがあります。近代西洋医学を中心として伝統医学や相補・代替医療を適宜合わせて行う医療のことです。その医療を推進するために厚生労働省では、統合医療情報発信等推進事業を行っています。その中で、ヨガの安全性と有用性が調査され、その成果としてヨガ利用ガイドが公表されています。
統合医療 | 代替医療:自然治癒力向上 西洋医学:対処療法 東洋医学:原因療法 |
ストレスや心身の不調に対してのヨガの有効性が明らかになってきています。ヨガ教室に参加している人の中には、健康な人だけでなく医療機関で治療を受けている人もいます。当然、健康な人と治療中の人が同じヨガプログラムで良いのかという危惧が生まれます。
利用ガイドでは、ストレスを感じていて対処法としてヨガを始めたい人やストレス性の病気で治療を受けながらもヨガを習いたいと考えている人が、安全で有意義にヨガを学べるための注意点を説明しています。
ヨガもいろいろ -田谷の洞窟- は如何でしたでしょうか。修行の場所として地層に洞窟を掘り、その中でひたすら呼吸や五感を整えて精神統一して神と人とが一体となる修行をしていた人々がいました。その人々の敬虔な祈りと修行の雰囲気の一端を感じとって頂けましたでしょうか。
ヨガでも座禅でも、たまには静寂の中で無の境地になってみるのもリフレッシュには良いかもしれませんね。
※資料等最終参照日:2019年6月