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やわらかサイエンス

ヨガもいろいろ -田谷の洞窟-(前編)

担当:藤原 靖
2019.05

今回は地層と仏像の話です。仏像のような偶像の崇拝を禁じる宗教もありますが、皆さんご存知のように、仏教では仏像が重要な役割りを果しています。

私たちが目にする仏像は、木や金属で作ったものが一般的ですが、自然の中の地層に彫られたものもあります。このような仏像は磨崖仏と呼ばれ、日本各地で見ることができます。

自然の岩山に仏像を彫ることは広くアジア各地で行われてきたもので、石窟や石窟寺院などと呼ばれています。しかし中には、日のささない暗黒の洞窟の中にあり、人目に触れる機会の少ない仏像もあります。今回はその1つである神奈川県横浜市の「田谷の洞窟」を紹介します。

■田谷の洞窟

田谷の洞窟は、正式には田谷山瑜伽洞(たやさんゆがどう)といいます。室町時代に開かれた真言宗大覚寺派 田谷山 定泉寺(じょうせんじ)にあります。洞窟そのものは、鶴ヶ岡二十五坊の修験道場として鎌倉時代初期に作られ始め、真言密教の修行窟として内部が拡大されたそうです。 <鶴ヶ岡二十五坊:鎌倉の雪ノ下に鎌倉時代から江戸時代まで存在した宗教施設の総称>

江戸時代にはしばらく閉ざされていましたが、江戸期の天保年間に湧水の潅漑用水としての利用と同時に修行の道場としての整備が行われました。開削は、近隣近郷の寺の修行者、農民や町人の応援や喜捨(寄付)などで進められたそうです。

左:田谷山瑜伽洞の入口画像、右:田谷山定泉寺の画像

洞窟は、主要なドームとそれらをつなぐ行者道と呼ばれる廻道から構成されています。ドームの最大のものは直径4m、高さ6mにもなります。廻道の全長は540m、廻道の高低差は10数メートルにもなるそうです。全長は1000mにも達するともいわれています。洞窟は過去の地震にも耐えており、トンネル構造物として土木工学的にも高い技術水準で作られたと考えられています。

洞窟の内部には阿・吽の獅子、昇竜、降竜、金翅鳥、十二神将(十二支)、四国・西国・坂東・秩父各札所本尊、両界曼荼羅諸尊、十八羅漢等数百体の御仏が、修行者の手によりノミ跡も生々しく壁面に刻まれています。

洞窟内は要所でわずかに照明が施されています。拝観者は火をともしたローソク立てを持ち、行者道の案内版を頼りに回ります。洞窟内は撮影禁止ですので、ここで仏像の画像を紹介することはできません。「鎌倉の密教地底伽藍 田谷の洞窟」という書籍に洞窟の構造や彫刻の詳細を知ることができます。

左:洞窟の入口画像、中:田谷の洞窟の書籍画像、右:同書写真の一部画像

■瑜伽(ゆが)とは

田谷山瑜伽洞の瑜伽(ゆが)とは、仏教におけるサンスクリット語のyoga(ヨガ)のことです。ヨガは、古代インド発祥の心身を鍛錬によって制御し、精神を統一して瞑想する修行方法です。近年では身体的ポーズを中心にしたフィットネスとして、宗教色を排したエクササイズとして身近なものとなっています。

ヨガと坐禅は、ともにまず姿勢を正して、呼吸や五感を整え、精神統一します。ヨガは、精神統一よって始めて超自然的な力が得られ、神と人とが一体となる修行として仏教に取り入れられました。それがひたすら足を組んで坐禅をすることで、功徳や利益を求めない無の境地、仏の境地になる禅の修行に繋がっていきました。

■密教の修行

ヨガと修行の関係について、高野山真言宗総本山金剛峯寺の密教に関する解説を参考にして少し紹介します。「真言」とは「ことば」を意味していますが、私たち人間の言語では表現できない、この世のさまざまな事象の深い意味、隠された秘密の意味のことです。隠された秘密こそ真実の意味で、それを知ることのできる教えが「密教」です。修行は隠された秘密を知るものです。

修行のあり方を修法といい、三密加持(三密瑜伽)と呼ばれます。精神を一点に集中する瞑想です。仏(本尊)の身と口と意の秘密のはたらきと行者の身と口と意のはたらきが互いに感応し、仏(本尊)と行者の区別が消えて一体となる境地に安住する瞑想を言います。これがヨガによる修行です。なかなか難しいですが、雰囲気は伝わりますね。

前編はここまでです。後編は田谷の地層やヨガの諸々の話を紹介します。


※資料等最終参照日:2019年5月

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