技術資料

やわらかサイエンス

並んだ石いろいろ(後編)

担当:藤原 靖
2018.11

■石を積んで作った壁 石垣

石垣は、庭園、神社仏閣、武家屋敷、城などでさまざまな造形美で目を楽しませてくれます。ストーンサークルは並べたもの、石室が箱のように積んだものですが、石垣は土木建設物です。

城の石垣は、敵の攻撃から守るなど堅牢ものです。権力者同士の戦いは、いつの時代にもあったと思いますが、古墳時代やその後の飛鳥、奈良、平安、鎌倉、室町時代の砦的な構造物は土を盛り上げた土塁(どるい)が主体であったようです。安土桃山時代の頃から本格的な石垣が作られるようになったそうです。
遠くから石垣をみる時のポイントは、石の加工の程度と石の積み方(並べ方)です。近くでは、石の刻印です。

<石の加工の程度>

野面積み(のづらづみ)
野面積みは自然石をそのまま積み上げるものです。石の大きさや形は多種多様ですので、隙間も多く、できあがった石垣の面はかなり凸凹としています。隙間には小さな石を詰めてしっかり作ります。
欠点は、隙間や凸凹があるので、簡単によじ登ることができるので防衛的には不利なことです。利点は、大雨が降ってもたくさんの隙間から排水されるので石垣が崩れることが少ない点です。

打込接ぎ(うちこみはぎ)
打込接ぎは石に多少の加工をしてから積み上げるものです。表面に出る石の角や面をたたき、できるだけ平坦あるいは直線的にして石と石が合わさる面の隙間を減らして積み上げます。できあがった石垣の面は多少の凹凸はありますが、隙間がかなり少なくなっています。
打込接ぎの技術により、野面積みより高く、より急な勾配の石垣を積むことが可能になりました。

切込接ぎ(きりこみはぎ)
切込接ぎは高度に石を加工してから積み上げるものです。四角く整形した石材を密着させるため、隙間はほぼありません。形も大きさもかなり揃っているので、整然と積まれた石垣です。
打込接ぎよりも強度が強く、より高い石垣を築くことができますが、隙間がほとんどないため、排水のため排水口などの工夫が必要です。

石の加工の程度と石の積み方(並べ方)を示した図

<石の積み方>

乱積み(らんづみ)
乱積みは目地を横一直線に揃えるのではなく、不規則に積み上げる方法です。いろいろな形の石を崩れないように積み上げるため、最終的な石垣の大きさや形を整えるのは難しく、熟練した技術が必要です。乱層積み(らんそうづみ)ともいいます。

布積み(ぬのづみ)
布積みは石と石の継ぎ目が横一直線(水平)になるように積み上げる方法です。きれいに目地(めじ)が通っているのですが、少し強度に問題があります。整層積み(せいそうづみ)ともいうそうです。
石の加工の程度である野面積み、打込接ぎ、切込接ぎのそれぞれに布積みと乱積みがあります。単純には6通りの石垣の種類があるということです。

その他の積み方
谷積み(たいづみ)という一定の谷ができるように石を斜めにして積む方法があります。斜めになった石材同士がお互いに押し合うような力を発生させて崩れにくくさせる「せり持ち作用」により布積よりも安定性があるといわれています。

亀の甲羅のように見える外観で特長のある積み方に亀甲積み(きっこうづみ)があります。石材を六角形に加工して積み上げる切込接ぎの石垣の一種です。亀甲積みは力が均等に分散するため崩れにくいそうですが、かなり高度な技術が必要です。

丸い石を積んだ石垣に玉石積み(たまいしづみ)というものがあります。玉石積みはその名のとおり玉石を用いた積み方ですが、あまり頑丈ではありません。亀甲積み同様、見た目ですぐにわかります。

様々な積み方の石垣の画像

<石に刻印>

石垣の石には多種多様な文様や記号が彫られていることがあります。これを刻印といいます。刻印には、大名の家紋を刻んだものがあり、石垣の新築や改築の時に持ち場を分担した大名家の家紋です。家紋ですから、石を調達して立派に石垣を作ったという証の意味もあったのかもしれません。家紋入りの石垣は大阪城が特に有名ですが、江戸城だった皇居やその周辺の石でも見ることができます。大阪城には、大阪城公園刻印石広場というものが整備されています。

大阪城や江戸城は多くの大名の共同作業ですが、各藩の城は自前なので家紋とは別の刻印が打たれています。その種類は数十種あるいは百種近くあり、石の産地、方位、日付、関係した人の名などに由来するものなどさまざまです。工事の分担や作業を組織的に円滑に進めるための記号でもあったようです。
このような刻印については、城内の石垣の案内板やパンフレットでも触れられています。城は日本全国各地にありますので、是非、石垣を見た際には刻印についても注目してみて下さい。

<石を転用>

石垣用の石は石切り場から採っていた石や河原などの石が使われますが、他の用途に使っていたものを使う場合があります。これを転用石といいます。転用石には、石垣、石仏、石塔、石棺など、神様や仏様に叱られそうなものもあります。

石はそのまま使う場合もありますし、割って使う場合もあります。城の石垣の傍に四角い穴が一列に開いた大きな石が残されていることがあります。これは石を割る作業を途中で止めたものです。この四角い穴は矢穴といい、ノミで彫られたものです。穴にクサビを打ち込むと穴の列に沿って石が割れます。

左:石割りのための穴が残る石、中:出雲松江藩堀尾家の分銅形の紋が彫られた石、右:伊予大洲藩加藤家の丸に十字形のくつわ紋が彫られた石

石垣には私たちでもよじ登れそうなものもありますが、垂直なもの、反り返ったものもあります。石垣の勾配に反りを持たせた積み方で、「忍び返し」、「武者返し」といわれています。石垣の上になるほど勾配がついて反りがあるものもあり、綺麗な曲線を描いています。高度な技能集団がいたということです。中でも穴太衆(あのうしゅう)という近江(滋賀県)出身の技能集団が有名です。

今回の「並んだ石いろいろ」は如何でしたでしょうか。石で作られたものは身の周りにたくさんありますね。特に神社仏閣や城郭ではいたるところで見られます。形や大きさだけでなく、石の種類、石の加工の程度、積み方の規則性、刻印などを意識すると楽しさが倍増です。是非、旅の思い出を増やしてみて下さい。


※資料等最終参照日:2018年11月

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