技術資料

やわらかサイエンス

小さな働きものいろいろ、火山から(前編)

担当:藤原 靖
2018.07

粘土の仲間にシラスというものがあります。シラスは火山からの贈り物です。今回はシラスについて紹介します。

左:火山灰を巻き上げる火山、右:日本の活火山の分布図

■火山でできたシラス

シラスという名前

シラスの語源は、「白砂」や「白州」だそうです。白っぽい細かな粒の地層をそのように呼んでいたそうで、もともとは広い意味だったようです。

現在では、シラスは九州南部の細粒の軽石や火山灰の厚い地層を指します。特に噴火で降り積もったものや火砕流で流れて集まったもので、固まりの程度が弱いものです。しかし細粒の軽石や火山灰が堆積した地層は、関東地方、東北地方、北海道地方にも広く分布していますが、シラスとは呼びません。また細粒の軽石や火山灰が堆積した地層で非常に硬い岩石となっているものがあります。溶結凝灰岩ですが、これもシラスとは呼ばないようです。
仲間は全国にいますが、シラスという名前は、鹿児島と宮崎を中心とする地域にあって、火山に由来する細粒の軽石や火山灰やそれらが弱く固まった地層のことです。

海のしらす

私たちの生活に馴染みのある「シラス」は魚の方ですね。こちらはひらがなで「しらす」とします。でも「しらす」も少々込み入っています。まず「しらす」と「ちりめんじゃこ」との区別は分かりますか。一般には、生のものから乾燥の度合によって名前が変わるだけです。「生しらす」→「しらす」→「しらす干し」→「ちりめんじゃこ」です。「生しらす」は、まさにお刺身の状態です。これを茹でると「しらす(釜揚げしらす)」となります。さらに乾燥して保存性を高めると「しらす干し」となり、日持ちの良い「ちりめんじゃこ」となります。

「しらす」の原料となる、あるいは「しらす」として漁獲する魚の種類は、カタクチイワシ、マイワシ、イカナゴ、ウナギ、アユ、ニシンなどの稚魚で、体に色素がない時期で体調2cmくらいまでのものです。紛らわしい魚にシラウオ(白魚)とシロウオ(素魚)があります。

シラウオ(白魚)はサケ目シラウオ科のアユやキュウリウオの仲間です。淡水・汽水に育ち、5~10cmくらいに成長します。江戸前では刺身・寿司ネタとしても食べられますが、佃煮が良く知られています。
シロウオ(素魚)はスズキ目ハゼ科のハゼの仲間です。成長しても体長5cmくらいの小型の魚です。活きたまま、食酢に入れ、そのまま飲み込む「躍り食い」が有名で、福岡では春先の季節感のある食材として知られています。

左:しらす、右:ちりめんじゃこ

■シラス、九州南部の火山灰

シラスのホームグラウンド

シラスは九州南部の平地を中心に分布していますが、中心は鹿児島県で、薩摩半島や大隅半島などの鹿児島湾の周囲です。その中でも特に鹿児島湾北部の地域でシラスが厚く堆積しています。鹿児島湾から遠ざかるにしたがって厚みが減ってきますが、熊本県や宮崎県にも分布しています。その厚みは鹿児島県内では数10m程度、何と150mという場所もあるそうです。

薩摩半島や大隅半島には、たくさんのシラス台地と呼ばれる地形があり、台地群と呼ばれるほどたくさんあります。台地と台地は谷で分断されているため、台地の縁、谷になる場所は崖になっており、その落差は数10mという急なものです。

左:鹿児島湾の海底地図、右:高山陣屋のお白州

シラスの巨大な生みの親

シラスの地層は大変厚いのですが、どうしてでしょうか。それは九州地方では、カルデラ噴火という巨大な噴火によって降り積もったからです。カルデラ噴火とは破局噴火とも呼ばれ、想像を絶する大きさの噴火です。

私たちは有珠山、雲仙普賢岳、浅間山の噴火を経験してきました。このような火山の山頂や山体の一部から噴火するのと違って、カルデラ噴火はある地域全体から噴火する巨大なものです。例えば、姶良(あいら)カルデラは、鹿児島湾(錦江湾)の桜島以北部分がカルデラという巨大な噴火です。姶良カルデラの噴火は約3万年前に起きたものですが、火山灰は東北地方でも10cmという厚みで降り積もらせたほどの巨大さです。

カルデラ噴火は、富士山の噴火の1,000倍あるいはそれ以上と言われるくらいに巨大なものだそうです。火山灰が日本列島の大部分に降り積もったらどのような環境や生活になるのでしょうか。まさに日本列島の存亡に係わります。火山国日本では、火山研究が非常に大切であることが分かりますね。

お白州

お白州といえば江戸時代の町奉行所にある裁きの場所のことです。裁きの場は「公事場」という役人が座る座敷とその下に「砂利敷」と呼ばれる砂利の上に筵(むしろ)を敷いた原告と被告が座る場所からできています。「砂利敷」には、突棒(つくぼう)・刺股(さすまた)・拷問用の石などを置いて原告と被告を威圧したそうです。武士や僧侶などの身分のある原告や被告人は「砂利敷」ではなく、座敷の一段下の縁側に座ったそうです。
また「砂利敷」は屋内にあり、時代劇のような屋外の白砂利敷ではなかったそうです。お白州の白い砂利は、裁きの公平さと神聖さを象徴する色であったからと言われています。

シラスの意味もさまざまですね。後編は粒が小さくて軽いシラスの働きぶりを紹介します。


※資料等最終参照日:2018年7月

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