技術資料

やわらかサイエンス

小さな働きものいろいろ、海や湖沼から(後編)

担当:藤原 靖
2018.06

後編では、小さな神秘的な孔がたくさん開いているユニークな性質を利用した珪藻土の活躍について紹介します。

珪藻土の活躍

珪藻土の粒、つまり珪藻の殻の大きさは100µm~1mmと小さなものです。この小さな粒にさらに無数と言っていいような孔がたくさん開いています。したがって、粒と粒の間の空間だけでなく、粒自体に空間があることが、珪藻土に活躍の場を与えています。珪藻土の粒、つまり珪藻の殻の大きさは100µm~1mmと小さなものです。この小さな粒にさらに無数と言っていいような孔がたくさん開いています。したがって、粒と粒の間の空間だけでなく、粒自体に空間があることが、珪藻土に活躍の場を与えています。

珪藻土の成分は、ほぼ100%がケイ酸ですが、もともと珪藻という生物であったことや湖沼や海といった環境に由来して、わずかですが有機物が混じっています。したがって、珪藻土の活躍には、「珪藻土を粉砕して細かくする」⇒「焼成して混じった有機物を除去して純度を高める」という準備工程が必要になります。

活躍のまず1番目がフィルター材としてです。殻はガラス質ですから、物質を吸着する性質はありません。したがって、溶液や排水などの液体状のものについて、溶けている成分はそのままで、溶けていない成分(不純物)をろ過することができます。特にビール製造にはかかせないもので、「やわらかサイエンス ビール愛飲者に捧げるやわらかサイエンス 第38回(2006.07)」に紹介されているので是非ご覧下さい。

日本酒のろ過方法はビールと全く異なります。日本酒のろ過は、「炭素ろ過」です。炭素ろ過は日本酒に粉末の活性炭を入れて、余分な雑味や色を吸着させて雑味や色が無くし、透明でスッキリとした味わいにします。炭素ろ過をすると旨味や香味が失われてしまうとも言われますので、日本酒の醸造段階で極力雑味を少なくして、炭素ろ過をしない「無ろ過」というタイプもあります。

2番目は吸収材としての活躍です。珪藻土は、さまざまな大きさの空間をたくさん持っているので、この空間に水分、油分、薬剤などを含ませて保持することができます。その1つの利用にダイナマイトがあります。アルフレッド・ノーベル氏は、爆発力が強いが液体で不安定なニトログリセリンを珪藻土に浸み込ませて固形化して安定な爆薬を作ることができました。ダイナマイトとして安全に運ばれて鉱山や建設の場面で利用され、ノーベル氏は巨万の富を築いた訳です。

和の世界では、輪島塗です。輪島塗の下地塗りの材料として、漆の浸み込みに優れた珪藻土の粉末が使われています。最近では、濡れた足も数秒後には足の裏がさらさらという珪藻土のバスマットが人気を博しています。吸水しても直ぐに乾燥するため、雑菌の繁殖もなく衛生的だとの評判です。

左:漆器の下地に珪藻土を塗るイメージ、右:珪藻土のバスマットイメージ

3番目は耐火・断熱材としての活躍です。殻はガラス質なので火に強く、珪藻土にはさまざまな大きさの空間に空気が入っているので、断熱性が高い材料です。代表選手は七輪です。珪藻土は柔らかいので、金属で削って七輪に整形することができます。これを「切り出し七輪」と言います。火に強いので、七輪の中で炭を燃やして調理ができますが、抜群の断熱性で周囲が熱くなりません。非常に軽くて、強烈な遠赤外線を放出するので、食材を美味しく焼き上げることができます。

最後は、合わせ技での活躍です。珪藻土は空間がたくさんあるので、容積あたりの重さが非常に軽いです。軽い上に水分を吸収することができ、火に強く断熱性があります。まさに建材として必要な性能を全て持っている材料です。古くは石灰と混ぜて壁土として利用されていましたが、最近では接着性のある材料と混ぜて壁材として使われます。自然素材としての風合いとして評価される一方で、湿度の調節(調湿)機能が注目された内装材として活躍しています。

左:珪藻土を削って作った七輪、中:珪藻土壁材のパッケージ、右:壁塗りイメージ

我が国の主な珪藻土の産地は、海水由来の珪藻土では秋田地方と石川県の能登地方、淡水由来の珪藻土では岡山県の蒜山(ひるぜん)地方、大分県の湯布(ゆふ)珪藻土などです。

藻類の仲間も頑張る
ワカメやコンブのような藻類ではなく、珪藻のように小さいものを微細藻類と言います。微細藻類では「クロレラ」が有名です。クロレラは淡水性の単細胞緑藻で、たんぱく質45%、脂質20%、糖質20%、灰分10%と栄養分が豊富です。大量培養の技術ができたことから、1960年代以降は健康食品として販売されています。最近では、「ミドリムシ」の方が有名になってきています。ミドリムシは、淡水性のユーグレナ藻という鞭毛中の仲間です。鞭毛運動をする動物的性質を持ちながら、同時に植物として葉緑体を持ち光合成を行うため、「単細胞生物は動物と植物との区別が難しい」という話の例として用いられます。

「小さな働きものいろいろ、海や湖沼からは」如何でしたでしょうか。珪藻土は私たちの生活の中で活躍していますが、珪藻に限らず藻類はいろいろな可能性を持っているようです。

藻類バイオマスと言って、微細藻類の光合成で「オイル」を産生する性質に注目したものがあります。オイルはバイオ燃料ですが、植物由来のバイオ燃料に比べて、桁違いに生産効率が高いとされています。また藻類バイオマスは、コーンオイルの原料のトウモロコシなどのように食品利用との競合もないため、次世代バイオ燃料として大変注目されているそうです。


※資料等最終参照日:2018年6月

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