技術資料

やわらかサイエンス

小さな働きものいろいろ、海や湖沼から(前編)

担当:藤原 靖
2018.05

地層の中には多種多様な鉱物があることが知られています。やわらかサイエンスでも特長的な鉱物の色や成分などについて紹介してきました。2018年掲載の「地層と健康いろいろ」では、『粘土を食べて健康増進』という話題も紹介しました。粘土は非常に小さな粒なので、興味深い性質を持っており、私たちの生活の中で大いに働いてくれています。

その粘土の仲間に珪藻土というものがあります。珪藻土は海や湖沼からの贈り物です。今回は、珪藻土という粘土の仲間について紹介します。

左:海の写真、右:狭義と広義の分類がある藻類を示す図

■海でできた珪藻土

珪藻について

珪藻は広義の藻類では、ワカメやコンブなどの仲間です。ワカメやコンブは狭義の藻類と言われ、肉眼で判別ができ、葉や枝など植物と同じ形態を持つ藻類です。一方、珪藻は肉眼で判別ができない大きさで、細胞壁がガラス質の殻で被われた単細胞生物です。真核藻類という非常に小さな生き物で、海、湖沼、河川などの水域で生活しています。

ガラス質の殻には非常に小さな孔がたくさん開いていて、顕微鏡で見るとさまざまな幾何学的な形があり、非常に綺麗な殻です。珪藻は分裂して数を増やす増殖方法と細胞の大きさを維持できる増殖方法の2つを繰り返して増殖していきます。
珪藻は古い時代から光合成によって有機物を生み出す一次生産者として重要な役割を果たしてきました。地球上の光合成の1/4は珪藻によると推定されているそうです。また珪藻の種類は、万単位あるそうです。

美しい藻類イメージ(日本藻類学会のホームページ)

珪藻から珪藻土へ

珪藻は大量に増殖して死んでしまいます。珪藻は、分解しても鉱物である殻は遺骸として残り、海底や湖底に堆積します。これが珪藻土(diatomite ダイアトマイト)で堆積岩の1つです。主成分は二酸化ケイ素(SiO2)です。多くは、白亜紀以降(約1億4,500万年前から6,600万年前から後の時代)の地層から産出されています。

堆積した珪藻の殻には何万種類という多種多様な種類があります。殻の表面には、小さな孔が規則的に開いており幾何学的な模様を形作っています。珪殻の模様、小さな突起の有無・形状・配列などの微細な構造に着目して分類されています。珪藻の種類を調べることで、地層の年代や当時の水域の状態、例えば深海、内湾、沿岸あるいは汽水域、淡水の湖沼など、さらには北極海、赤道付近、南極海などの緯度や気候などの環境情報を知ることができるそうです。

珪藻の殻

稲もガラスをつくる
ところでガラス質の殻は珪藻だけでなく、陸上の植物にも見られます。植物にはケイ酸を吸収して、ガラス質を体内で作る働き、生体珪化作用と呼ぶものがあります。その作用が顕著なものがイネ科の植物です。細胞の中にガラス質が沈着することで、植物の体は硬くなります。食害を及ぼす菌類や昆虫から身を守る、乾燥や強風に抵抗するなどの能力の1つだと考えられています。イネ科の植物の葉は細長くて硬いので、ササなどが繁茂した場所を通ると手足を切ることがあるのはそのせいです。
沈着したガラス質は植物が枯れて分解した後も残るので、土の中に見ることができます。このガラス質はプラント・オパールと呼ばれています。イネを稲刈りして脱穀すると「もみ殻」ができます。よく田んぼでもみ殻を焼いているのを見ますが、焼くとガラス質が残ります。なんと、もみ殻には約20%、稲ワラには約12%もガラス質があるそうです。もみ殻循環という資源有効利用の試みがあり、燃焼して取り出したガラス質を農業分野ではシリカ肥料として、耐酸性、流動性、緻密性を高めるコンクリート用の混和材(セメントに混ぜる微粉の材料)として利用しています。

左:ガラス質がたくさん含まれる硬いもみ殻、右:近藤錬三著のプラント・オパール図譜書籍画像

小さな珪藻の殻が地層を作るとは、まさに「塵も積もれば」ですね。また小さな珪藻の殻には神秘的な孔がたくさんありましたね。稲やササもガラス質を作り、地層にたくさん含まれているのも興味深いですね。後編は、私たちの生活の中での珪藻土の活躍を紹介します。


関連:過去の珪藻関連やわらかサイエンス
第26回:COOL BIZ?— CoolなBusiness Valueが注目される軽装ではなく珪藻の話 —
第38回:ビール愛飲者に捧げるやわらかサイエンス

※資料等最終参照日:2018年5月

ページの先頭にもどる