技術資料

やわらかサイエンス

地層のことわざもいろいろ(中編)

担当:藤原 靖
2017.12

岩、石、土といった地層に由来する言葉を使った故事・ことわざで、石のつくものの続きです。

■岩という言葉のあるもの(続き)

生命のない、心のないものとして

石は無機物ですから、生命の宿るものではありません。当然のことですが、生命現象は見られませんし、人のような感情を持つこともありません。そのような無生物的な役回りです。

  • 石地蔵に蜂(いしじぞうにはち)
    石地蔵は生き物ではないので、蜂が刺しても何も感じません。何を言われても、何をされても、何とも感じないことのたとえに使われます。

石地蔵は石を削ったり彫ったりして作った像ですが、石仏は崖のような場所の岩に彫りこんだ仏像です。

  • 石に花咲く(いしにはなさく)
    石に花が咲くようなことは絶対ありません。現実には絶対に起こるはずのないことのたとえに使われます。

たまに石の割れ目に植物が根を張り、花を咲かすことがありますね。石割草という高山植物もあります。

  • 石に灸(いしにきゅう)
    石に灸(きゅう)をすえても、凝りがほぐれることがないという意味で、何の効き目や反応もないことに使われます。

灸は「やいと」ともいい、ヨモギの繊維から作った「もぐさ」に火をつけて温熱刺激するものです。昔は子供がいたずらをすると「やいとをすえるよ。」といって叱ったものです。

石を彫って作った狛犬、岩に彫り込まれた仏像、灸のイメージ
  • 石が物言う世の中(いしがものいうよのなか)
    生き物でない石が言葉を話したり、声を出したりすることはありません。それでも周囲に石しかない場所で人に話したことが、誰かに漏れてしまうのが世の中の常であるという意味です。それほど秘密は漏れやすく、隠し事をするのは難しいことのたとえに使われます。

「壁に耳あり障子に目あり」に少し近いでしょうか。

  • 人、木石に非ず(ひと、ぼくせきにあらず)
    感情を持たない木や石とは違い、人は怒ったり泣いたり笑ったりする感情豊かな動物ですという意味です。

石はそのようですが、木は石とは違い四季折々の表情があり、花を咲かせますので感情豊かな感じがしますね。

  • 木仏金仏石仏(きぶつかなぶついしぼとけ)
    木、金属、石でできた仏像は、形は人のようですが感情があるわけではないので、感情や人情の無い人のことをたとえて使います。特に男女の情愛です。
  • 石部金吉金兜(いしべきんきちかねかぶと)
    感情や人情の無い人のことです。
  • 石に裃(いしにかみしも)
    石に裃を着せたような人のことで、感情や人情の無い人のことです。裃という最上級の礼服なので、非常に形式的で堅苦しい人という意味合いでもあります。

裃は「ころもへん」に「うえした」なので、上下揃いのスーツですね。共布(ともぬの)の肩衣(かたぎぬ)と袴(はかま)のことです。

木仏金仏、石仏、裃の正装イメージ

身の回りのありふれたものとして

  • 玉石混淆(ぎょくせきこんこう)
    玉(ぎょく)は翡翠(ひすい)という、緑色や紫色をしたヒスイ輝石のことです。硬く美しい宝石の中に、価値のない普通の石が交じり合っているという意味です。良いものと悪いもの、優れたものと劣ったものが混じっていることに使われます。

自分は玉の方でしょうか、石の方でしょうか。誰しもが玉と言われたいですね。

  • 玉を衒いて石を売る(たまをてらいていしをうる)
    宝石である玉のように見せびらかして、価値のない石を売るという意味です。

詐欺師的な行動を批判したものでしょうか。ありがちなことですね。

  • 他山の石(たざんのいし)
  • 他山の石以って玉を攻むべき(たざんのいしもってたまをおさむべし)
    墓石に布団を着せることは、意味がないということです。つまり親が生きている間に暖かい布団を着せてあげることは、親孝行で有意義であるが、親が死んでからでは、したくても孝行のしようがないたとえで使われます。

何か不祥事があるとそのことをさして「他山の石としたい。」というようなコメントを耳にしますが、なかなか謙虚で良い意味ですね。

  • 躓く石も縁の端(つまずくいしもえんのはし)
    身の周りにある普通の石に躓いたら、何の変哲もない石とでも何かの縁で結ばれているという意味です。自分にかかわる全てのことが、さまざまな縁で結ばれています。

やっぱり石に躓くのは危険なので、登山道では特に気を付けましょう。

翡翠、勾玉、登山道の躓きそうな石のイメージ

石の道具・石材や名前に石がつくものとして

石は、石ころはそのまま石つぶて、加工して墓石、石垣、階段などに使われます。また石のつく動物や物の名前があります。そのようなものを使った故事・ことわざです。

  • 石に布団は着せられず(いしにふとんはきせられず)
    墓石に布団を着せることは、意味がないということです。つまり親が生きている間に暖かい布団を着せてあげることは、親孝行で有意義であるが、親が死んでからでは、したくても孝行のしようがないたとえで使われます。

「親孝行したいときに親はなし」ということわざは良く聞きます。

  • 蒟蒻で石垣を築く(こんにゃくでいしがきをきずく)
    蒟蒻のように四角であっても柔らかくて、砦や城の土台となる丈夫な石垣できないことを言っています。とうてい出来るはずがないことのたとえです。

四角で柔らかいものの代表が、なぜ豆腐でなく蒟蒻なのでしょうか。

  • 磁石に針(じしゃくにはり)
    磁石に針を近づけると簡単にくっついてしまします。磁石と針のようにくっつきやすいもの組合せ、多くは男女の仲が接近しやすいことをいうそうです。

磁石は今では鉄製のものですが、昔は磁鉄鉱という鉱石でした。

  • 捨て石になる(すていしになる)
    囲碁での作戦上、相手に取らせるように打つ石、「捨て石」と同じ役割を果たすことです。大きな目的達成のために、その前の段階として犠牲になることの意味で使います。

土木用語でも「捨石工」という、基礎マウンドという防波堤や護岸を作る際の土台を作る工法があります。

  • 火打ち石据え石にならず(ひうちいしすえいしにならず)
    火打ち石は火をおこすときは非常に役立ちますが、家の土台にする時には小さ過ぎて全く役に立たないという意味です。

火打ち石(燧石)は、鋼鉄製の火打金にとがった石英などの硬い自然石を打ち合せ、生じる火花を火口に点火するものです。銃の発射方法が火縄式から雷管式への移行期に燧石式というのがありました。ジッポーのオイルライターにも付いています。

石垣、方位磁石、土でできた亀のイメージ
  • 薬石効なし(やくせきこうなし)
    薬石とは薬と治療器具のことです。いろいろな薬も治療法も効果が得られなかったという意味で、いろいろ試してみたが効果がないという意味です。
  • 薬石の言(やくせきのげん)
    薬や治療器具のように効果のある言葉、大変参考になる忠告、助言のことです。

石は治療器具というよりは、何かの薬効成分を含む鉱物のような感じがします。薬石になるような言動をしたいものです。

  • 転がる石には苔が生えぬ(ころがるいしにはこけがはえぬ)
    英国のことわざで、転がってばかりいる石には、苔が根付かないという意味で、活発に活動している人は、いきいきとしているということです。一方米国では、仕事や住まいをよく変わる人は、あまり成功しないというマイナスの意味です。

綺麗な川の底では、上流から転がってきた丸い石に苔が付いたのを見かけます。

  • 一石二鳥(いっせきにちょう)
    石ころは、狩猟や戦いで用いられた原始的な道具です。一個の石を投げて二羽の鳥が採れるので、一つの行為で二つの利益を得る意味で使われます。
  • 一石を投じる(いっせきをとうじる)
    静かな水面に石を投げると大きな波紋が生じることから、平穏なところに反響を呼ぶような問題を投げかけることを意味して使われます。

石は遊びの道具でもあります。幸運に恵まれて、一度に二つの的に命中したことや水面に石を投げてできた波紋を見た経験は誰にでもありますね。

  • 我が心石に非ず、転ずべからず(わがこころいしにあらず、てんずべからず)
    私の心は石ころではないので、転がすことはできない。自分の心は確固たるものがあるので、おいそれとは動かされないという意味で使われます。

強い心を持った人のことですね。凡人は心が揺れ動きやすいものです。

  • 雁が飛べば石亀も地団駄(かりがとべばいしがめもじだんだ)
    雁が飛んだのを見て、石亀が飛ぼうとしたが飛べなくて、くやしがって地団駄を踏むという意味です。身のほどもわきまえず、人まねしようとしてもうまくいかないという意味で使われます。

石亀は、ニホンイシガメが日本固有種で、北海道と沖縄を除く地方で生息していますが、準絶滅危惧種です。


※資料等最終参照日:2017年12月

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