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やわらかサイエンス

地層のことわざもいろいろ(前編)

担当:藤原 靖
2017.11

今回は、岩、石、土といった地層に由来する言葉を使った故事・ことわざについて紹介します。故事やことわざは、昔のできごとや先人の知恵が世代から世代へと現在に伝わり、受け継がれているものです。では、岩、石、土は、故事・ことわざの中で、どのような役回りをしているのでしょうか。岩は人間にとって自然の中での偉大なもの、石は人間にとって資源や道具として大切なもの、土は人間にとって農業や生活文化として密接なものです。

故事・ことわざが意味することだけでなく、岩、石、土、それぞれの役割に注目してみました。是非、最後までお付き合い下さい。

信仰の対象となる石、紫水晶石、お茶の木のイメージ

■岩という言葉のあるもの

岩という言葉を使った故事・ことわざは、岩、石、土の中では案外少ないです。ここでは2つ紹介しますが、いずれも岩は「硬いもの」の代名詞として使われています。その背景は、岩は人間の力では対抗できない偉大なもの、崇高なものといったところでしょうか。

  • 一念岩をも通す(いちねんいわをもとおす)
  • 思う念力岩をも通す(おもうねんりきいわをもとおす)
    思う念力は硬い岩を通してしまうという意味です。何かしようとするときに、岩のように大きくて硬い障害があっても、必死になって取り組めばその障害を乗り越えられるということです。

岩を相手にするというだけでも、必ず成功させるという強い意志を感じますね。

  • 女の一念、岩をも通す(おんなのいちねんいわをもとおす)
    女性の強い思いは、硬い岩をも通してしまうという意味です。女の人が執念深いことのたとえとして使われています。

男性にとっては、少し怖い表現ですが、女性への畏敬も感じます。

■石という言葉のあるもの

岩、石、土という言葉が出て来る故事・ことわざでは、石を使ったものが一番多くあります。石で表現する内容も多岐にわたっていますが、役回りを次のように分けてみました。

  • 石のもつ硬いあるいは重いという性質、ヒンヤリと冷たいあるいは熱くすると冷めにくいといった温度に関係する性質として
  • 生命のない無生物や感情のないものとして
  • 足元にある石ころのような身の回りのありふれたものとして
  • 石という原始的な道具や材料、名前に石がつくものとして
  • 石(こく)という容積の単位として

石のもつ性質|硬いものとして

  • 雨垂れ石をうがつ(あまだれいしをうがつ)
  • 点滴石を穿つ(てんてきいしをうがつ)
    滴るわずかな雨垂れでも、長い間同じ所に落ち続ければ、硬い石に穴があくことを意味しています。微力でも根気よく継続すれば、いつか成果が得られるということです。

神社仏閣などの軒下の石で目にすることがありますね。苔がついたりして風情があります。

  • 石に立つ矢(いしにたつや)
    「岩」で紹介した「一念岩をも通す・思う念力岩をも通す」のことわざになった故事がこれです。どんなことでも、必死になってやればできるということのたとえです。
  • 陽気発する処、金石も亦透る(ようきはっするところ、きんせきもまたとおる)
    「陽気」という活動しようとする気が発生すれば、金属や石のように硬いものでも貫くという意味です。困難なことでも、精神を集中すれば必ずできるということです。

陽気も念力のようですが、両方とも強い意志や心構えの大切さを言っています。

  • 石に漱ぎ流れに枕す(いしにすすぎながれにまくらす)
    昔、中国の孫楚という人が、俗世間を離れて田舎で気ままに暮らす意味の「石に枕し流れに漱ぐ」と言うべきところを間違って、逆の「石に漱ぎ流れに枕す」と言ってしまって、友人にからかわれました。そこで、負けず嫌いのこの人は、流れに枕して、石で歯を磨くのだとこじつけたという故事に由来するそうです。大変、負け惜しみが強いここと、屁理屈をこねることなどに使われます。

夏目漱石というペンネームの「漱石」も、この故事に由来するそうです。「自称へそ曲がり」ということでしょうか。

  • 石橋を叩いて渡る(いしばしをたたいてわたる)
    硬く丈夫な石の橋でも叩いて安全性を確かめて渡るという意味です。用心し過ぎるほど用心するという意味で使われます。良い意味では非常に慎重な人のことですが、悪い意味では慎重すぎる人や臆病な人に対して使う場合もあります。

「石橋を叩いても渡らない」や「石橋を叩いて壊す」のようにパワーアップしたものも聞きますね。石橋は現在では歴史的なものがほとんどですが、特にアーチ橋は、最近の研究により、景観性、耐荷力、耐久性、耐震性に優れ、工事費、維持管理費が非常に小さいことなどが見直されています。

雨だれ、減勢工の石、アーチの石橋のイメージ
  • 金石の交わり(きんせきのまじわり)
    金属や石のように非常に硬い、しっかりした交わりという意味です。簡単には壊れない、永久に変わらない固い友情や交友のたとえとして使われます。

金石は、金鉱石を想像します。硬いうえにピカピカしてそうですね。

  • 卵を以て石に投ず(たまごをもっていしにとうず)
    硬い石に柔らかい卵を投げつけても簡単に卵が割れるだけで、石は疵もつかず割れもしないことから、損するばかりで何の効果もない、無駄な行為や愚かな行為に使われます。

卵は柔らかいものという意味に加えて、高価なもの、滋養のあるものを無駄に捨ててしまうという意味を強く感じます。

石のもつ性質|重いものとして

石は漬物の重しや文鎮に使われます。石にもいろいろな種類があるので、重さはまちまちです。比重がその目安ですが、軽いものでは、頁岩(けつがん)、砂岩(さがん)、凝灰岩(ぎょうかいがん)など1.1~1.8、重いものでは「輝緑岩(きりょくがん)、蛇紋岩(じゃもんがん)、角閃岩(かくせんがん)」などで、3.0を超えるものがあります。

  • 石が流れて木の葉が沈む(いしがながれてこのはがしずむ)
    川では、木の葉が流れて重い石は下に沈んでいますが、この表現では意味が逆になっています。本来の道理と逆で、道理に合っていない、理不尽なことの意味です。世に中にありがちな権力者や暴君などの横暴を揶揄したり、嘆いたりする言葉です。

石も濁流では流されることもり、木の葉も水分を含んで川底に沈んでしまうものもあります。

  • 石を抱きて淵に入る(いしをだきてふちにはいる)
    重い石を抱えて水に入るのは非常に無謀です。本当は救命胴衣が必要なくらいです。したがって自分で自分の危険やトラブルを招くようなことを意味しています。

潜って魚を捕る時には、石を抱いて深く潜る場合があります。

石臼、川底の落ち葉、石のベンチのイメージ

石のもつ性質|温度に関係するものとして

石は洞窟や石室のようにひんやりしたイメージです。一方で、石を火にくべて焼き、焼いた石を鍋に入れて茹でたりもします。温石(おんじゃく)といって、昔は石を温めて真綿や布などでくるみ、懐中に入れて背や腹を温めるのに用いました。

  • 石の上にも三年(いしのうえにもさんねん)
    冷たい石は、ちょっとやそっとでは温かくならないものです。しかしその冷たい石でも三年間という長い時間、我慢して座り続ければ温まると言う意味です。何事も辛抱強く耐えれば、長い時間がかかっても目的を成就できるということです。

低体温症やエコノミークラス症候群になりそうですね。

  • 焼け石に水(やけいしにみず)
    焼けて熱くなった石に少々の水をかけても水蒸気があがるだけで、なかなか温度を下げることができません。何ごとも僅かな努力や援助では、効果があがらないので、根本的に向き合う方法が間違っていることを示す場合に使われます。

とはいっても、少しの水でもかけ続ければ、徐々に冷ますことができそうですが。

前編はここまでです。中編、後編と続きます。


※資料等最終参照日:2017年11月

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