技術資料

やわらかサイエンス

石灰もいろいろ(前編)

担当:藤原 靖
2017.08

石灰とその仲間たちは、やわらかサイエンス2016年掲載の「むきとゆうきで色いろいろ」で紹介した白の岩絵の具の胡粉(ごふん)や「岩のこのみはいろいろ」で登場しました。今回は、もっと石灰とその仲間たちに注目して、私たちの身近な生活との関わりから、地球の壮大な営みの一端までを紹介します。是非、最後までお付き合い下さい。

胡粉を使った能面、カルストの石灰岩、サンゴの浜のイメージ

石灰とその仲間たちの最初の話は石灰岩のあれこれです。

■石灰岩とは

石灰岩は、英語ではlimestone(ライムストーン)といいます。柑橘のライム(lime)とチャップリンの映画「ライムライト(limelight)」のライムとは同じ綴りです。柑橘のライムの方は関係がありませんが、「ライムライト」は、白熱電球が普及する前の石灰を使った照明器具のことです。

石灰岩は、日本各地、世界各地に分布しています。岩石は、普通、いろいろな鉱物からできています。これらの鉱物を造岩(ぞうがん)鉱物といいます。ところが石灰岩の場合は、方解石(ほうかいせき、カルサイト(calcite))という1種類の鉱物からだけで、できています。方解石の成分は炭酸カルシウム(CaCO3)で、カルシウムと炭素と酸素の3つの元素という非常に単純なものです。

ところで炭酸(CO3)を成分とする鉱物を炭酸塩鉱物と呼びます。方解石がその代表ですが、貝殻などの生物に由来する炭酸カルシウムは、アラレ石(アラゴナイト(aragonite)、CaCO3)です。その他に、カルシウムとマグネシウムを含む苦石灰(ドロマイト(dolomite)、CaMg(CO3)2)とカルシウムではなく鉄を含む菱鉄鋼(シデライト(siderite)、FeCO3)がよく知られています。

■石灰岩のでき方

石灰岩のでき方は次のように考えられています。石灰岩の材料は、サンゴ礁です。サンゴ礁の下は海山(かいざん)になっており、この海山がプレートという、地球の表層の岩の板にのっかっています。よく地震の解説に出てくるユーラシアプレートなどのプレートのことです。

このプレートが長い時間をかけて移動して、海溝(かいこう)に行き付きます。ここでは海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込みます。このとき、海洋プレートの上にあるサンゴ礁や海溝に堆積したものが大陸プレートにぶつかり、陸地と一体化して石灰岩ができあがります。

一口にサンゴ礁といいましたが、実際には有孔虫、ウミユリ、サンゴ、貝などの石灰質の殻が堆積したものです。日本の石灰岩は、今から3~2億年前に堆積したもので、2億5千~1億5千年前に陸地と一体化したと言われています。石灰岩は世界中に分布していますが、日本の石灰岩は土砂の混じりが少なく、炭酸カルシウムの純度が高いといわれています。

石灰岩のでき方
石灰岩のでき方

■石灰岩の兄弟

サンゴ、貝などの石灰質の殻が石灰岩の子供とすると石灰岩の兄弟もいます。大理石です。大理石は、石灰岩がマグマの熱の影響を受けて、結晶質の石灰岩となったもので、英語ではmarble(マーブル)といいます。石灰岩を作る方解石の結晶が肉眼で見えるくらいに大きく成長して、ピカピカしています。そのため、石材として非常に重宝されています。ところで、マーブルチョコレートのマーブルは大理石から来ています。チョコの表面が大理石のようにピカピカしていることとマーブルには「おはじき」という意味もあることから、この名前になったそうです。

大理石の床、マーブルチョコレートイメージ

■石灰とその仲間たちの活躍

石材として

石灰岩の活躍の1番目は何と言っても石材です。古くはスフィンクスの石材として使われています。スフィンクスがある場所は、太古は海であった場所でもあり、石灰岩でできています。ここを掘り下げてスフィンクスを作り、掘り下げる時にできた石材を使って周りの神殿を作ったそうです。

地層はもともと海だった名残で塩分を多く含むため、毛細管現象によりスフィンクスの表面に塩分が集まり乾燥して塩ができます。この時に体積が膨張するので、石灰岩の表面がボロボロになってくるため、スフィンクスは何度も修復されています。日本の研究者により、電気探査という地層を調べる技術を応用して、スフィンクスの修復や保存のための調査をしたこともあります。

石材としては、石灰岩の兄弟の大理石も大活躍しています。世界的にはインドのタージ・マハールが有名ですが、身近なデパートや銀行などの立派な建築物の壁や床にもたくさん使われ、光り輝いて豪華で荘厳な雰囲気を演出しています。

粉末にして

次は、石灰岩や貝殻をすり潰した粉末の利用です。成分は炭酸カルシウム(CaCO3)です。まずは、冒頭に出てきた白の岩絵の具の胡粉です。その他にもベビーパウダー、チョーク、歯磨き粉、化粧品原料、食品添加物、入浴剤にも使われています。その中でもほとんどが炭酸カルシウムからできているのがチョークです。

チョークは炭酸カルシウムの粉を固めたものです。本来は白色ですから、色付きのものは顔料を混ぜています。最近では貝殻や卵の殻などの炭酸カルシウムを原料にして、水産加工や食品製造で発生する未利用資源を有効利用して作られています。特に神奈川県の川崎市を拠点とするチョークなどの学用品の会社は、高い品質と多くの障害者の雇用で広く知られています。

粉末にした石灰岩は、石炭火力発電所の公害防止でも活躍しています。石炭の燃焼ガスには二酸化硫黄(にさんかいおう(SO2))が含まれているので、そのまま排出するわけにはいきません。そこで、燃焼ボイラーから出る排ガスを石灰石の粉末と水とを混ぜて作ったスラリーの中に吹き込みます。排ガス中の二酸化硫黄はスラリーに吸収され、除去されます。吸収された二酸化硫黄は石膏(せっこう)となります。この装置が排煙脱硫装置(はいえんだつりゅうそうち)で、できた石膏が脱硫石膏と呼ばれるものです。

卵の殻、ホタテの貝殻、黒板とチョークのイメージ

前半は、ここまでです。中編では「石灰とその仲間たちの活躍」の続きと「石灰岩が作るユニークな地形」を紹介します。

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