技術資料

やわらかサイエンス

じめんの中の壁もいろいろ(後編)

担当:藤原 靖
2017.05

後編では大きな箱を沈めて壁を作る、粘土で壁を作る、土を盛って壁を作る、凍らせて壁を作る方法について紹介します。

■大きな箱を沈めて壁を作る

地下に大きな構造物を作る場合に、ケーソンと呼ばれる大きなコンクリートや鉄でできた円筒や四角い箱を地面に置き、箱の中の地面を掘りながら徐々に箱を地中に沈めていくことで、地面の中に丈夫な壁で仕切られた空間を作る方法があります。箱といっても一辺が数10mの大きなものもあります。大きな橋や建造物の基礎として、下水ポンプ場、雨水の地下調整池、シールドトンネルの立坑などに幅広く使われています。

工法は2つあり、1つはオープンケーソン工法というものです。これは、井筒(いづつ)工法とも呼ばれるものです。円筒や箱で囲まれた内部の地面の土砂を取り除きますが、柔らかい地盤や地下水の多い場所では、水や泥が流れ込んで作業が難しくなります。そこで、箱を二重構造にして、地面を掘る部屋の中の気圧を高くして、水や泥の流入を防止しながら堀り進む工法もあります。こちらは潜函(せんかん)工法とも呼ばれます。

左:底の無い円筒や箱の内部で地面を掘り下げるオープンケーソン工法(井筒工法)
右:円筒や箱の二重構造の圧気された空間で地面を掘り下げるニューマチックケーソン工法(潜函工法)
左:底の無い円筒や箱の内部で地面を掘り下げるオープンケーソン工法(井筒工法)
右:円筒や箱の二重構造の圧気された空間で地面を掘り下げるニューマチックケーソン工法(潜函工法)

■粘土で壁を作る

セメントや鉄を使って壁を作るのが一般的ですが、柔らかい粘土を使って遮水のための壁を作る方法があります。この方法は、粘土は水を通しにくい、汚染物質を捕まえる、地震で変形しても元に戻るなどの粘土独特の性質を利用したものです。

壁の作り方は、粘土のスラリーを噴出させながら、箱型の掘削機や大きなチェーンソー式の掘削機で溝を掘ります。粘土と削られた土砂とが混じり合って粘土スラリーの壁ができあがります。

主に有害物質を地中に封じ込めるための周囲の遮水や敷地の周囲を遮水して内部の地下水を汲み上げ地下水位を下げて地盤が液状化しないようにする目的で使われます。

■土を盛って壁を作る

土を盛って壁を作ることは最も古典的な方法です。土や粘土を台形状に盛って固めて堰堤(えんてい)を作る方法で、でき上がったものは土堰堤(どえんてい)、あるいはアースダムと呼ばれています。ため池などはこの方法で作られ、空海が修復したことで有名な香川県の満濃池(まんのういけ)が有名です。しかしこのような盛土の壁は、地面の中の壁ではありません。

そこで地面の中に土堰堤で壁を作った珍しい例を紹介します。この壁は、アフリカの乾燥地帯に作った地下ダムの壁です。なぜ壁を土堰堤で作るかというと、道路のような盛土を作る場合と同じブルドーザ、転圧ローラ、ダンプトラックという普通の機械と土とで作ることができるからです。鉄骨、鋼矢板、セメントなどの高価な材料も不要だからです。

作り方は、地下水が溜まりそうな地層まで、乾季の乾いた期間に地面を掘り下げて、土堰堤を作って埋め戻します。雨季が来て地下水が豊富になると、地下の壁に遮られて地下水が地面の中に貯まるという仕組みです。

左:土堰堤形式の地下ダムの施工順序のイメージ、右:地面を掘り下げてダムを作る工事中の様子
左:土堰堤形式の地下ダムの施工順序のイメージ
右:地面を掘り下げてダムを作る工事中の様子
左:地下ダムに水が貯まるイメージ 右:雨季に出現した川(季節河川)の様子
左:地下ダムに水が貯まるイメージ
右:雨季に出現した川(季節河川)の様子

■凍らせて壁を作る

土を凍らせて壁を作る方法があります。凍結工法と呼ばれる工法で、50年以上の歴史のあるものです。一般的には軟弱な地盤を一時的に凍らせて、コンクリートのように固くしてから掘削するような場合に使われます。

凍結工法では地面の中に何も加えず凍結させるので、土壌や地下水の汚染がなく、解凍すれば元に戻すことができることから、環境にやさしい工法とも言われています。凍結した部分は、鉄やコンクリートともしっかり密着し、水の通らない層を作ることができます。そこで、特に柔らか地盤を掘削することが多いシールドトンネル工事で使われます。シールドマシンが立坑から発進する場合、立坑に到達して貫通する場合、トンネル同士が合流する場合などに、凍結工法でしっかりした地盤を作って工事をすることがあります。

凍結工法によるシールドトンネル工事のイメージ
凍結工法によるシールドトンネル工事のイメージ

地下に大きな構造物を作る場合に、ケーソンと呼ばれる大きなコンクリートや鉄でできた円筒や四角い箱を地面に置き、箱の中の地面を掘りながら徐々に箱を地中に沈めていくことで、地面の中に丈夫な壁で仕切られた空間を作る方法があります。箱といっても一辺が数10mの大きなものもあります。大きな橋や建造物の基礎として、下水ポンプ場、雨水の地下調整池、シールドトンネルの立坑などに幅広く使われています。

工法は2つあり、1つはオープンケーソン工法というものです。これは、井筒(いづつ)工法とも呼ばれるものです。円筒や箱で囲まれた内部の地面の土砂を取り除きますが、柔らかい地盤や地下水の多い場所では、水や泥が流れ込んで作業が難しくなります。そこで、箱を二重構造にして、地面を掘る部屋の中の気圧を高くして、水や泥の流入を防止しながら堀り進む工法もあります。こちらは潜函(せんかん)工法とも呼ばれます。
凍結工法を応用したものに、福島第一原子力発電所の放射性物質を高濃度に含む汚染水対策として地盤を凍らせて遮水の壁を作る事業があります。地面を凍らせて長い壁を作り、これを長い期間にわたって維持するのは非常に珍しい事業です。

ところで、自然環境で凍結した地盤は、永久凍土として知られています。永久という名称がついていますが、夏の間は表面から数10センチメートルから数メートルくらいの層は溶けています。時々、マンモスやホラアナライオンの冷凍遺体が見つかることもあります。
このような夏に溶ける層は活動層と呼ばれています。この活動層が地球温暖化で増加していると言われています。永久凍土にはメタンハイドレートが含まれていることが多く、凍土が溶けると温暖化係数が二酸化炭素の25倍と言われるメタンガスが大気中に放出され、さらに温暖化を進めることになってしまいます。

今回は3回にわたって地面の中の壁について紹介しました。地面の中に壁を作ることが建設工事では大切な役目を果たしています。地面の中の壁は、目にする機会があまり無いですが、いろいろな創意工夫を重ねて実績を積んだ工法で作られています。

街中で大きなビルなどが建つ前に地面で何か工事をしているのを見かけたら、是非、覗いてみて下さい。今回紹介した方法のどれかで地面に壁を作っているかもしれません。

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