技術資料

やわらかサイエンス

砂もいろいろ(後編)

担当:藤原 靖
2017.02

前編では砂の決め方、砂特有の動き方、砂の色について紹介しました。後編では、砂で描くアート、社会で活躍する砂、砂のある風景について紹介します。

■砂のアート

砂とアートについて直ぐに思いつくものは砂絵です。砂絵は江戸時代から、お客さんの求めに応じて、さまざまな色をつけた砂で描くものがありました。大道芸として縁起物などの画題が多かったようです。海外では砂曼荼羅(すなまんだら)というものがチベットにあります。これは、先がすぼまった管のような漏斗(ろうと)を用いて、デザインに合わせて砂を撒くものです。チベットを舞台にしたテレビ番組や映画だと必ず出てきます。

砂絵は路上や床などに描く平面的なものですが、もう少し立体的なものが、香川県観音寺の巨大な銭形砂絵です。もっと立体的になると砂像となり、各地の砂浜などで砂像作りのイベントが催されています。砂像は水と砂を混ぜて固めた大きな砂の塊に、道具を使って彫る彫刻の一種です。中でも2006年から展示が始まった鳥取砂丘の砂の美術館が、迫力満点で見応えがあるそうです。

上:漏斗を使って砂曼荼羅を描く様子、中:出来上がった砂曼荼羅のアート、下:香川県観音寺の寛永通宝をかたどった巨大な銭形砂絵
上:漏斗を使って砂曼荼羅を描く様子
中:出来上がった砂曼荼羅のアート
下:香川県観音寺の寛永通宝をかたどった巨大な銭形砂絵

■砂の活躍

次は、砂が社会で活躍する場面を紹介しましょう。まずは何と言っても建設業界での活躍です。砂はコンクリートを作る上でなくてはならない材料です。砂はコンクリートに使う場合は、細骨材(さいこつざい)と呼びます。

コンクリートは、セメント、砂、礫(粗骨材(そこつざい)と呼びます)に水を混ぜて作ります。砂はこれらの材料がよく混ざり、均一になるためのコロの働きをします。礫を使わず、セメント、砂、水だけの場合は、コンクリートではなくモルタルと呼びます。タイルの目地に使うのがモルタルです。モルタルの色が白色の方が好ましい場合には、珪砂(けいしゃ)と呼ばれる白い石英の砂だけを使用します。

また砂はさらさらして扱いやすいので、人工的な地層を作るのにも用いられます。特にゴツゴツとした地層や礫で作った層の表面を平らに均すための敷き砂として使います。地面を掘って水道管やガス管などの配管を設置した時に、配管を保護するための埋め戻しの材料としても砂を使います。

生コンクリート、鋳物の作り方イメージ

自動車産業などの金属加工でも砂が大活躍しています。金属部品を作るために使われる鋳物砂(いものずな)です。鋳物は熔けた金属を鋳型(いがた)に入れて、冷めてから鋳型を外して金属部品を取り出します。この鋳型は、砂と特殊な薬剤を混ぜて作ります。砂は型を作り易い、砂は熔けた金属が固まるときに出るガスが簡単に抜ける、砂には保温性があるので急冷されない、砂なら型から取り出す時に簡単に崩すことができる、砂で作ればほぐして再利用が出来るなど、砂ならではの性質を使ったものです。

最後はペット用の猫砂です。猫は、自分の環境を衛生的にする、あるいは臭いが狩りの対象のネズミなどに知られないようにするなどから、自分の排泄物を砂に埋めて隠す習性があります。猫砂は、その習性を利用して猫の飼育での排泄用の砂の一種として生まれたものです。

猫砂は、粒の大きさだけが砂のイメージで、成分は全く別物です。粒の成分には、鉱物系、植物系、シリカゲル系があります。それぞれ、色や大きさ、効果と効果の持続時間、使用後の処分方法などに特徴があります。

鉱物系は、主成分がベントナイトで、水質浄化などに用いられる粘土の仲間です。ベントナイトは、水分やアンモニアなどをたくさん吸収して固まります。もともとベントナイトは粘土なので粒が小さいため、砂のサイズに造粒(ぞうりゅう)してあります。

植物系は、おから、コーンスターチ、おがくず、紙などの材料で作ったものです。トイレに流せるものがあり、燃えるゴミとして出すことができます。

シリカゲル系は、その名の通りシリカゲルで、脱臭や消臭効果は抜群で、持続性も相当あります。

ペット用の猫砂イメージ

■砂のある風景

砂がある場所は、砂浜、砂州、砂丘、砂漠などです。いずれも砂が水や風の力で運ばれて集まった地形です。

砂浜は、川の上流の岩が浸食され礫や砂になり、水の流れにより下流に運ばれて海にたどり着き、海岸に溜まったものです。しかし、日本では川にダムを作ることが一般化したために、砂は海まで運ばれなくなりました。そのため砂浜がやせ細ってきています。最近では砂を下流に流せるダムもありますが、環境影響や漁業被害などの問題もあるようです。そこで、浜の砂を移動したり、山砂を補給したり、潮流で持ち去られないように消波ブロックで突堤(とってい)や離岸堤(りがんてい)を作っています。これを養浜(ようひん)と言います。  砂州は、海や湖の湾(わん)と呼ばれる入り組んだ場所の一角に、砂が溜まってできた地形です。砂嘴(さし)とも呼ばれ、形が鳥のくちばしに似ています。この砂のくちばしが繋がって、湾の一部を囲ったようになることがあります。天橋立やサロマ湖が観光名所として知られています。砂州の長さは日本では数キロメートルですが、インドの南東部でベンガル湾に面したシュリーハリコータの砂州という全長数百キロメートルの巨大なものがあるそうです。

天の橋立の砂州、サロマ湖の砂州のイメージ

砂丘は、砂が十分あり、風が強く、気候が乾燥しているところで、風によって運ばれた砂が堆積してできた丘状の地形です。海岸や湖、あるいは大きな川の近くで見られます。日本では鳥取砂丘(鳥取県)、吹上浜砂丘(鹿児島県)、中田島砂丘(静岡県)が三大砂丘として知られています。砂丘は、砂が堆積したものなので、長い間に場所が移動することもあります。海外では北海に面するイギリス、デンマーク、オランダの海岸で砂丘が見られます。

砂漠は、熱帯から温帯にかけて、降雨量が極端に少ない気候に関係してできた、岩石や砂礫の荒地のことで、砂丘と全く別物です。砂だけの荒れ地は実際には少なく、岩が剥き出しの岩石砂漠が一番多く、石ころだらけの礫砂漠や土や粘土で覆われた土砂漠が一般的です。

左:アフリカの岩石砂漠や土砂漠になりつつなる地域、右:アメリカの岩石砂漠、礫砂漠、土砂漠が広がる地域
左:アフリカの岩石砂漠や土砂漠になりつつなる地域
右:アメリカの岩石砂漠、礫砂漠、土砂漠が広がる地域

砂の季語は、砂あらし、灼け砂(やけすな)、砂日傘(すなひがさ)です。砂あらしは、春の季語であり、春の風物詩です。砂あらしは、エジプトではハムシーン、アフリカ西部ではハルマタンと呼ばれています。まさにエジプト出身の関取「大砂嵐」と四股名がつくほど有名なものです。

灼け砂と砂日傘は、夏の季語です。灼け砂は、誰にでも経験のある裸足で歩くと痛いくらい熱い夏の砂浜、砂日傘は、その砂浜にさしてあるビーチパラソルのことです。

今回の砂の話はいかがでしたでしょうか。旅先などで見たり触ったりして、砂をじっくり観察してみて下さい。

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