技術資料

やわらかサイエンス

岩のこのみはいろいろ(前編)

担当:藤原 靖
2016.09

今回は地質と植物のお話です。よく植生という言葉を聞きますが、これはある場所に生育している植物の集団のことで、同じような環境にはよく似た植物の集団、つまり植生が分布しています。

植生は環境の違いにより影響を受けますが、植物自身も幅広い環境への適用性を持っているので、環境の違いの大きさと植物の適用性との兼ね合いで決まります。したがって、地質が変われば植生も変わるというものではありません。

環境の違いは、大きな意味では暑さや寒さと植物が利用できる水の量のことです。したがって、熱帯~亜熱帯~暖温帯~冷温帯~寒帯という気温と完湿潤~湿潤~半乾燥~乾燥~完乾燥という降水量・蒸発量バランスを主体とした気候で決まります。

ところで、気温による気候の区分はおおむね緯度と関係しますが、同じ緯度でも標高によっても変わります。赤道に近いところは熱帯、北極海に近いところは寒帯といった関係ですが、同じような関係が高山の麓と頂きとの間でも現れます。キリマンジャロは赤道直下ですが、標高6000m近い頂上には氷河があります。

熱帯雨林・広葉樹林・針葉樹林写真
左:熱帯雨林  中:広葉樹林  右:針葉樹林

次に植生に影響するのは地形です。地形は尾根と谷を考えると、尾根は水はけが良い、風当たりが強い、表層土壌が安定しないなどですが、谷部は水はけが悪い、風当たりが弱い、表層土壌が保全されやすいなど、逆になりますので、それぞれに適応した植生となります。

最後が地質あるいは土壌といった要因です。ところで、今回は地質と土壌は一つの概念で考えてみます。つまり○○な地質を起源として生成した○○土壌という環境と考えれば一つの概念になります。例えば、地質では石灰岩、土壌では石灰岩質赤色土とすると、石灰岩を母材として生成する赤色土ですから、共通する概念は、「カルシウムが土壌の成分のほとんどでアルカリ性が高い環境」ということがクローズアップされます。

 では地質・土壌を一つの概念にした環境にはどのようなものがあるのでしょうか。いずれも極端な例ばかりです。

■石灰岩:カルシウムが土壌の成分のほとんどでアルカリ性が高い環境

岩石のほとんどはケイ酸(SiO2)からできていますが、石灰岩はサンゴなどの生物の殻が起源なので、ほとんどカルシウムでできています。石灰岩から生成した土壌はカルシウムが過剰で植物の生育に欠かせないカリウムやリンが不足しています。このような環境では、石灰岩植物(せっかいがんしょくぶつ)と呼ばれる植物が生育します。チチブイワザクラ (サクラソウ科)やキバナコウリンカ (キク科)などです。

また石灰岩は風化しにくいため土壌の発達が悪く、保水性が悪いため乾燥しやすく、樹木の生育障害が大きいために森林が発達しにくい傾向があります。そのため、比較的標高の低い場所でも過酷な環境で適応する高山植物の生育が見られます。

 カルシウムが土壌の成分のほとんどでアルカリ性が高い環境は、カルスト台地がその典型で秋吉台や四国カルストが有名ですが、その他、北上山地、秩父山地、南アルプスなどが知られています。

左:サンゴの浜、右:四国カルスト台地
左:サンゴの浜  右:四国カルスト台地 

■蛇紋岩(じゃもんがん)・かんらん岩:アルカリ性で重金属濃度が高い環境

蛇紋岩・かんらん岩はケイ酸が少ない超塩基性岩(ちょうえんきせいがん)と呼ばれる岩石です。地下の深い場所でゆっくり冷えて固まったものをかんらん岩と言い、水の影響を受けて変質したものを蛇紋岩と言います。2つは兄弟のような岩石ですが、地表に現れている場合は蛇紋岩の場合が多いです。どちらもマグネシウムを多量に含んでおり、他にクロムやニッケルを含んでいます。クロムは溶けにくい状態になっていることが多く、植物の生育に害を与えることは少ないのですが、ニッケルは時として植物に障害を与えます。また、多量に含まれるマグネシウムが植物の水分吸収能力やカルシウムの吸収を低下させるとも言われています。

 このような環境では、超塩基性岩植物(ちょうえんきせいがんしょくぶつ)と呼ばれる植物が生育します。ヒダカソウ (キンポウゲ科)、トサミズキ (マンサク科)、ハヤチネウスユキソウ (キク科)などです。

蛇紋岩が風化して生成される土壌は、土壌粒子間の結合が弱いために土壌中に水分を含むと液状化や地層の流動を起こしやすい傾向があります。蛇紋岩を含む地層がある地域では、大規模な斜面の崩落や地滑りが発生しやすいと言われています。そのため森林が発達しにくくなり、石灰岩地帯と同じく比較的標高の低い場所でも高山植物の生育が見られます。

 蛇紋岩は谷川本峰、朝日岳、至仏山、早池峰山、庚申山などで見られます。かんらん岩は夕張山地の岩内岳が大きな岩の塊が地表で観察できる場所として知られています。

左:蛇紋岩。白色の脈がくっきり。、右:かんらん岩(幌満)。オリーブ色が美しい。
左:蛇紋岩・白色の脈がくっきり
右:かんらん岩(幌満)・オリーブ色が美しい
左:石灰岩地帯で生きるイワザクラ,
右:蛇紋岩地帯で生きるヒダカソウ
左:石灰岩地帯で生きるイワザクラ
右:蛇紋岩地帯で生きるヒダカソウ

前編はここまでです。後編も宜しくお願いします。

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