技術資料

やわらかサイエンス

土の色いろいろ

担当:藤原 靖
2016.06

皆さんは土の色というと何色を直ぐに思い浮かべますか。土には黒っぽいもの、赤っぽいもの、黄色っぽいもの、白っぽいものさまざまありますが、それぞれの人が思い浮かべる土の色はさまざまではないかと思います。
では土の色はどうやって決まるのでしょうか。まず土が何からできているかについて考えてみます。土は、植物の葉や根、あるいはそれらを食べて分解した微生物の死骸などの有機質の材料と岩石、砂、粘土、火山灰などの母材(ぼざい)と呼ばれる無機質の材料とからできています。

有機質の材料は堆肥や腐葉土を思い浮かべるとわかるように黒色です。湿地でできる泥炭(でいたん)という土の仲間は、ほとんど植物の体が分解したものからできており、真っ黒です。このように有機質が多いと黒色になるというわけです。

無機質の材料は、主成分がケイ素、アルミニウム、カルシウム、鉄と言った元素からできています。この無機質の材料を簡単にいうと、カルシウムや鉄を含むいろいろな種類のケイ酸アルミニウムという鉱物の仲間です。このケイ酸アルミニウム類やカルシウムは白色です。カルシウムが主成分のサンゴの死骸からできているコーラルサンドは真っ白というわけです。

ケイ酸アルミニウム類などの母材に含まれる鉄だけは、さまざまな色に変化します。鉄は酸素が多い環境では褐色や赤色になります。熱帯などの風雨にさらされ、酸素が一杯の環境で鉄ばかりが残ったラテライトは真っ赤というわけです。酸素が少ない環境では青緑色となります。田んぼを耕した時や道路工事の溝を掘った時の下の方にある土、水でジメジメした土の色は青緑色というわけです。

私たちが目にする土は、無機質の白色の絵の具を基調に、有機質の黒色の絵の具、鉄がさまざまに呈する褐色・赤色・青緑色の絵の具を使って、土ができる環境に応じて絵の具の色の混じり方が決まり、それぞれの色合いを示しているというわけです。

左:アフリカの赤い土
アフリカの赤い土
右:中国の白い土
中国の白い土

土の色というのは、その土の形態的な特徴を端的に表しています。私たちの顔でも「顔色をうかがう」という表現があります。これは人がどのような状態かどのような意向かなどについて調べることで、顔色に出ているというわけです。土の色にも土の化学的な性質性、物理的な性質、生物的な性質が表れています。形態的な特徴には土の色のほかに、団粒構造(だんりゅうこうぞう)という言葉が知られている土の構造があります。

土の黒味が強いから有機質が多く土壌の生物相も豊かで肥沃な土である、あるいは赤味が強いので風化が進んで肥沃度が低く硬く水の通りにくい土である、青味があるので一年を通して水が多い環境にあり嫌気性になりやすい土である、という感じです。

そこで、土を調べる時には、しっかり土の色を特定しておかなければなりません。土の色は、世界共通のマンセル表色系による色相(色味)、明度(明暗)、彩度(強さ、鮮やかさ)の三属性で示します。実際に土の色を調べる時には土色帖という土の色だけのカラーチャートを使って、どのチャートに一番近いかを調べて決めます。この土色帖を使えば、誰でも簡単に土の色をピタリと決めることができます。ちなみに、土の色は色相、明度、彩度の順番に記号や数字を決めていきます。例えば7.5YR4/4という具合です。この記号と数字が分かれば世界中で自分が持っている土色帖を見れば、誰でも土の色が分かる訳です。

左:土色帖(表紙)
土色帖(表紙)
(色相・明度・彩度表とカラーチャート)
(色相・明度・彩度表とカラーチャート)

さまざまな色合いを持つ土は、風景のイメージの中でも重要な演出をしています。故郷の風景、人がそれぞれに思い描く典型的な風景、その中では土の色が風景の演出に一役買っているのです。

私の故郷、瀬戸内の風景では、土の色は白っぽく黄色っぽい色です。この土の色は、瀬戸内周辺はマサ土と呼ばれる花崗岩が風化した土の色です。マサ土は母材の石英や長石の白色を基調に有機質を保持する力が弱いので黒っぽい色にならず、母材の雲母に含まれる鉄が酸化して褐色味を与えています。

では関東の風景はどうでしょうか。風景の中の土の色は黒っぽい色ではないでしょうか。これは黒ボク土と呼ばれる火山から噴き出した灰を母材にしてできた土のためです。黒ボク土は、有機質を大量に保持しやすい土なので真っ黒です。そのため軽くてホクホクしているので、この名前があります。北海道にも同じような黒っぽい畑の風景の印象がありますが、やはりこれも黒ボク土です。

静岡の茶畑の風景はどうでしょうか。新幹線から見る茶畑の土の色は赤っぽくありませんか。この土は、赤黄色土と呼ばれる酸性の強い土です。お茶は他の作物と違って酸性を好むことが知られています。

では沖縄の風景はどうでしょうか。何と言ってもサトウキビ畑やパイナップル畑の赤味が強かったり黄色味が強かったりする褐色の土の色ではないでしょうか。これはマージと呼ばれる土で、酸性の国頭(くにがみ)マージと弱アルカリ性の島尻(しまじり)マージがあります。南西諸島では、さまざまな理由で赤土が流出してサンゴ礁に影響を与えることが知られていますが、この赤土と総称される土がマージです。

左:黒ボク土
黒ボク土
右:赤色土
赤色土

さて、あなたが思い浮かべた土の色は何色でしたか。また思い浮かべた風景それはどこの地方でしょうか。それは故郷や旅先の風景でしょうか。その風景は、林のある風景、あるいは畑や田んぼのある風景でしょうか。その中の土の色はどのようなイメージでしたか。有機質が多い感じでしょうか、母材の特徴が出ている色でしょうか、水が多いあるいは少ない印象でしょうか。
これから訪れる旅先で、車窓や飛行機の窓から風景を目にした時、是非、土の色のことを思い出してみて下さい。より一層の思い出になること間違いなしです。

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