技術資料

やわらかサイエンス

鉱物(mineral)って何?

担当:重廣道子
2003.04

今回のやわらかサイエンスは【鉱物(mineral)って何?】です。「そんなの簡単!」という人も、「石の話なんて退屈~」という人も、ちょっとだけ一緒に考えてみましょう。

鉱物(mineral)とは・・・

鉱物はミネラル(mineral)とも呼ばれますが、地質学者が指すミネラルと、ミネラルウォーターのミネラルとは、厳密に言えば同じ定義を持ちません。ここでは、地質学で鉱物と呼ぶ物質に限定します(なぜなら地質が私の専門だからです!)。

地質学の鉱物とは、以下の条件を全て満たさなければなりません。

  1. 結晶質の固体であること
  2. 自然に生成されること
  3. 無機物であること
  4. ある特定の化学組成を持つこと
  5. 特有の物理的性質を持つこと

以上の5つの条件を一つずつ見てみましょう

1.結晶質の固体であること

結晶とは、とても簡単に言えば、原子あるいはイオンが、三次元の空間に、ある特定の順序できちんと並んでいることです。結晶質の固体Aの原子の並び順は均質であるため、どこをとってもAであるべきです。 例えば、石英を板のチョコレートと置き換えて考えてみましょう。チョコレートはどこを食べてもチョコレートですね。さて、この板のチョコレートを砕いてクッキーの生地の中に入れて、チョコレートチップクッキーを作ったとしましょう。チョコレートチップクッキーはあるところを食べるとチョコレートが出てきますが、他の部分を食べるとバタークッキーだけです。

これと同じように、花崗岩は、ある部分を見ると石英の結晶粒子が見えますが、他の部分を見るとカリ長石や白雲母が見えます。つまり、花崗岩は、鉱物の集合体であり、花崗岩そのものは、鉱物ではなく、岩石の名称なのです。

余談ですが、クッキーの中身が変わると、オートミールクッキー、レーズンクッキーと名前が変わるように、岩石の組成鉱物が変わると、岩石の名称も、花崗岩、閃緑岩、斑糲岩、といったように変わります。また、チョコレートチップクッキーとチョコレートマーブルクッキーのように、同じ材料で出来ていながら、前者は固形、後者は溶かしたチョコレートを使うため、見かけが変わり、呼び方も変わります。

これと似たようなことが岩石でも起こります。花崗岩と片麻岩はほぼ同じ鉱物組成を持ちますが、片麻岩は、マグマがゆっくりと冷めて出来た火成の花崗岩に、後から圧力や温度が加わった結果できたもので、変成岩という岩石グループに分類されます。

2.自然に生成されること

人工的に生成されたダイヤモンドなどは言語道断!鉱物と呼ぶことは出来ません。鉱物は、溶岩が冷める時や、一度溶岩が固まって出来た岩石が埋没する時に圧力・温度が上昇することによって、人の手を借りずに自然に生成されます。また、温泉の水のように、熱い水が岩石の割れ目などを通過するときに、熱水中に溶解した物質と岩石中の鉱物が反応することにより、新しい鉱物が析出したりします。

3.無機物であること

例えば、氷砂糖は結晶質ですが、植物から生成される有機物であるため、鉱物ではありません。一方で岩塩は、海水などが蒸発して結晶質化するため、鉱物の仲間に入ります。石炭は、植物が堆積し、埋没・続成作用により生成した物なので、厳密にいえば鉱物ではありません。さらに顕微鏡で石炭を見ると、花粉が見えたり、鉱物質の物質が見えたりします。この不均一性も、鉱物と定義づけるためにはNO-NOです。

4.特定の化学組成を持つこと

原子が特定の順番で並び、それぞれの鉱物が特定の化学組成を持っていることにより、鉱物の識別・鑑定が可能です。鉱物は化学式によって表すことが出来ます。
例:石英→SiO2

5.特有の物理的性質を持つこと

物理的性質とは様々なものがありますが、地質学者は、ふつう・・・
色・結晶形、晶癖・劈開、破面・硬度・光沢・比重・条痕
などという特性をテストし、鉱物の鑑定をします。この他の特性としては、味(有毒なものもあるのでなめて味をテストすることは大変危険です!!)、磁気、電気的性質、などがありますが、鉱物を単独の性質だけで判断することは大変困難です。
例えば石英、岩塩、方解石はいずれも透明な結晶を形作ることがあります。色だけではどの鉱物かわからないため、ナイフで削って固さを調べたり、劈開があるかどうか、その方向はどうか、といったこともあわせて見るのです。そのために、多くの地質学者は小さなハンドレンズ、携帯用ナイフを持ち歩いています。もちろん見た目だけでは判別できないことも多く、そのような時は、顕微鏡観察、X-線回折分析、などといった方法を用いて鑑定します。

現在4000種ほどの鉱物が知られている、と言われていますが、まだまだ発見されていない鉱物も存在します。こんなにたくさんの鉱物を見分けるなんて・・・ちょっと気が遠くなるようなお話ですね。
しかし、鉱物は身近に存在する物で、そうそう固く考えることはありません。最近マイナスイオンで流行のトルマリンや、パワーストーンなどといって、きれいに磨かれたターコイズ、ローズクオーツ、オニキスなどが売られていたりもしますが、これらも全て鉱物です。さて、身のまわりをぐるっと見てみましょう。鉱物が見つかりますか?


鉱物プレビュー

★質問  以下の1から5までの物質で、鉱物に属するものはどれでしょう?

★答え  1. 琥珀  2.真珠  3.水  4.氷  5.オパール

★解説

  1. 琥珀は樹木の樹脂が化石化したものです。有機物であるため、厳密には鉱物ではありません。しかし、【化石化】という作用は、地質学的活動の埋没作用などにより起こるため、鉱物図鑑に載っていることもあります。
  2. カキ等の貝の中に砂などの異物が入り、その異物の周りを炭酸カルシウムが覆い、 球状になったものです。琥珀と異なり、真珠は地質学的活動に関わらず、貝という有機物から直接生成された炭酸カルシウムのかたまりです。ですから、鉱物ではないことは明かですね。
  3. 水は液体なので、鉱物ではありません。
  4. 水は液体なので鉱物ではありませんが、固体の氷は鉱物の定義を満たします。
  5. これは少し難しい判断です。オパールは、基本的にSiO2(石英)に5-10%の水分がプラスされたものです。鉱物図鑑を見ると、オパールは石英のグループに入っていますが、結晶質ではありません。オパールのように、結晶質という項目以外は全ての鉱物の条件を満たすものは、ミネラロイドという鉱物のクラスに分類されます。

★正解:4(氷)


参考文献
Cepeda, C. J., 1994, Introduction to Minerals and Rocks, Mcmillan College Publishing Company, 217 pgs.
Plummer, C.C. and McGeary, D., 1991, Physical Geology, Fifth Edition, Wm.C.Brown Publishers, 543 pgs.
※文献最終参照日:2003年4月

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