技術資料

Feel&Think

第19回 軸差応力下の岩石挙動(乾燥、排水条件)

担当:里 優
2018.07

今回からは、いよいよ三軸圧縮試験で見られた岩石試料の挙動と、これまでの検討により得られた理論式が表す挙動を比較していきます。まずは、乾燥条件と間隙水圧が一定に保たれる排水条件での結果を比較します。

三軸圧縮試験における岩石試料では、初期クラックの破壊とこれによる実効応力の増加、二次クラックに伸長と開口に伴う体積の膨張が生じていると解釈できました。これらを前提として、次のような理論式が得られました。

数式1
数式2
数式3

これらの式は、全て初期等方状態からの軸ひずみの増分Δε1の関数となっており、軸ひずみを増加させながら軸差応力や体積ひずみの変化を求めることができます。

軸差応力とひずみの関係を左右するのが、式(3)の破壊密度です。これにより、軸差応力と軸ひずみの関係がどのような影響を受けるかを調べてみました。前回と同様に、mだけを変化させることとし、λは破壊密度関数のピークが同じ軸ひずみで生ずるように定めました。

数式4

グラフでは、Δε1pを0.5%としています。これにEを1,000MPaとして、式(1)で表される軸差応力と軸ひずみの関係を描いてみました。軸ひずみが大きくなると破壊密度が1に近づいていくことから、軸差応力が上昇した後に0に近づいていく、いわゆるひずみ軟化が表現されています。ただし、実験では軸差応力が最大値を示した時点で軸力の載荷を終了しています。

図-1 軸差応力と軸ひずみの関係に及ぼす破壊密度関数の影響
図-1 軸差応力と軸ひずみの関係に及ぼす
破壊密度関数の影響

三軸圧縮試験の結果では、有効拘束圧が大きくなると軸差応力の最大値が大きくなる傾向が見られました。これは、初期クラックの破壊密度関数が有効拘束圧の影響で変化しているためと考えられます。例えば、有効拘束圧が大きくなると、初期クラック面の閉塞による摩擦抵抗の増加やクラック端部に圧縮の応力集中の発生などで、同じ軸差応力でも初期クラックが破壊しにくくなると考えられます。これを表現する一つの方法は、破壊密度関数が軸ひずみの大きい側にシフトしたとしてモデル化することができます。そこで、有効拘束圧が高くなると、破壊密度関数のピークを示す軸ひずみが大きくなるとして、破壊密度関数の変化を次式で表現してみました。

数式5

ここに、数式 であり、μは実験定数です。

上式に、式(3)と式(4)を組み合わせることで、図-3に示すような軸差応力と軸ひずみの関係を描くことができます。すなわち、有効拘束圧が大きくなると軸差応力の最大値が大きくなる傾向を表現することができます。このときの破壊密度関数を図-4に、また破壊密度を図-5に示します。

ただし、式(4)は初期クラックの破壊についての深い考察に基づいたものではなく、あくまでも定性的な傾向を表現するために用いたものに過ぎません。初期クラックの破壊密度関数と有効拘束圧の関係については、解決すべき課題として残しておきたいと思います。

図-2 有効拘束圧による軸差応力と軸ひずみの関係の変化
(凡例の数字は、左が拘束圧、右が間隙水圧、単位はMPa)
図-2 有効拘束圧による軸差応力と軸ひずみの関係の変化
(凡例数字:左・拘束圧、右・間隙水圧、単位MPa)
図-3 有効拘束圧による破壊密度関数の変化
図-3 有効拘束圧による破壊密度関数の変化
図-4 有効拘束圧による破壊密度の変化
図-4 有効拘束圧による破壊密度の変化
表-1 実験結果と理論式の比較に用いた定数

それでは、三軸圧縮試験結果と式(1)~式(5)の理論式が描く曲線とを比較してみましょう。
理論式で用いた定数を、表-1にまとめて示します。Eは軸差応力と軸ひずみのグラフの初期接線から、νは軸ひずみと横ひずみのグラフの初期接線からそれぞれ求めました。mΔε1pは、第18回で求めたmλから式(4)を介して得られる値を用いました。その他の値は、試行錯誤により実験結果をよく近似するものを求めて使いました。

採用した値は岩種で大きく異なっており、同じ岩種では多少のばらつきはあるものの類似した値となっています。このことは、これらの値が岩種ごとの特性値であることを示しています。

図-5~図-12が実験結果と理論式の比較です。着目すべき点は、次のとおりです。

(1) 軸差応力の増加に伴う体積の膨張と、これに及ぼす有効拘束圧の影響が的確に表現されているか。
(2) 軸差応力と軸ひずみの関係で用いた破壊密度関数で、軸差応力と体積ひずみの関係も表現できているか。
(3) 実効応力の概念が、軸差応力と体積ひずみの関係においても反映されているか。

まず、軸差応力の増加に伴う体積の膨張ですが、二つの岩種の乾燥と排水条件の全てにおいて、理論曲線は実験結果を的確に表現できています。また、有効拘束圧の増加に伴って、軸差応力が大きくならないと体積膨張が生じない傾向も表現されています。このことは、体積の膨張が有効拘束圧に反比例するとした式(2)が、妥当なものであることを示しています。この体積膨張の傾向は破壊密度関数で定められており、破壊密度関数は軸差応力と軸ひずみの関係で用いたものと同じです。したがって、式(1)と式(2)が妥当であることがここでも示されています。

注目すべき点は、図-6をご覧いただければわかるとおり、実験で現れた体積の収縮が表現できていることです。式(2)の中には、体積の収縮を表す項は入っていません。また、これまでも何度か述べたとおり、軸差応力の増加とともにAEが活発に生じ、径方向のP波速度は低下していくことから、開口を伴ったクラックが発生していると考えられ、体積は常に膨張しているはずです。体積が収縮しているように見える理由は、式(1)が表すように、岩石内部の実効応力が計測している軸差応力より高いために、実効応力に比例して生じている体積ひずみは、軸差応力に対しては収縮側に振れてしまうからです。このことは、実効応力の概念の下で構築された式(1)や式(2)が妥当であることを示しています。

次回は、非排水条件での実験結果と理論式を比較します。

図-5 軸差応力と軸ひずみの関係(来待砂岩、乾燥条件)
図-5 軸差応力と軸ひずみの関係(来待砂岩、乾燥条件)
図-6 軸差応力と体積ひずみの関係(来待砂岩、乾燥条件)
図-6 軸差応力と体積ひずみの関係(来待砂岩、乾燥条件)
図-7 軸差応力と軸ひずみの関係(三条目安山岩、乾燥条件)
図-7 軸差応力と軸ひずみの関係(三条目安山岩、乾燥条件)
図-8 軸差応力と体積ひずみの関係(三条目安山岩、乾燥条件)
図-8 軸差応力と体積ひずみの関係(三条目安山岩、乾燥条件)
図-9 軸差応力と軸ひずみの関係(来待砂岩、排水条件)
図-9 軸差応力と軸ひずみの関係(来待砂岩、排水条件)
図-10 軸差応力と体積ひずみの関係(来待砂岩、排水条件)
図-10 軸差応力と体積ひずみの関係(来待砂岩、排水条件)
図-11 軸差応力と軸ひずみの関係(三条目安山岩、排水条件)
図-11 軸差応力と軸ひずみの関係(三条目安山岩、排水条件)
図-12 軸差応力と体積ひずみの関係(三条目安山岩、排水条件)
図-12 軸差応力と体積ひずみの関係(三条目安山岩、排水条件)
ページの先頭にもどる