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第10回 微少破壊と間隙水圧
前回紹介した非排水条件での実験では、軸差応力の増加に伴い間隙水圧が減少することや、初期有効拘束圧が同じであれば、軸差応力の増加に伴う間隙水圧の減少は同様の傾向を示すことがわかりました。今回は、このときの岩石内部の変化をもう少し詳しく見ていきましょう。
まずは、軸差応力の増加に伴うAEの発生の様子です(図-1)。乾燥条件、排水条件と同様に、軸差応力の増加とともに活発なAEが観測され、微少破壊が発生していることがわかります。AEの発生数と間隙水圧の変化の関係を、図-2に示します。初期間隙水圧の大きさにかかわらず、AEの発生数が増加し始めると間隙水圧の減少が始まることが良くわかります。
軸差応力の増加に対する、径方向のP波速度の変化を図-3に示します。ただし、P波速度の変化は三城目安山岩での実験でのみ計測されています。これまでと同様に、軸差応力の増加に伴うP波速度の低下が見られ、開口した空隙の発生を示唆しています。P波速度とAE発生数の関係を、図-4に示しました。両者には強い相関が見られ、AEの発生と調和してP波速度が低下していくことがわかります。さらに、図-5では径方向P波速度と間隙水圧の関係も示しました。P波速度が減少すると間隙水圧も減少することがわかります。
このように、非排水条件ではAEの発生、P波速度の減少、間隙水圧の減少が歩調を合わせて生じており、軸差応力の増加に伴って微少破壊が発生し、これにより開口した空隙が発生して間隙水を膨張させ、間隙水圧を減少させていると解釈できます。
図-6には、間隙水圧と体積ひずみの関係を示しました。両岩種とも、間隙水圧が減少を始めると体積ひずみが膨張に転じていくことがわかります。ただし、間隙水圧が増加している範囲での間隙水圧と体積ひずみの関係と、間隙水圧が減少していく範囲での間隙水圧と体積ひずみの関係が異なっています。間隙水圧が増加している範囲では、間隙水圧の増加に対する体積ひずみの減少分は小さいのに比べ、間隙水圧が減少していく範囲での間隙水圧の減少に対する体積ひずみの増加分は大きくなっています。
排水条件での排水量と体積ひずみの関係でも同じような検討をしましたが、この原因については、次のような推論ができます。
推論1
体積の増加には、間隙水を含まないクラックの開口が寄与している。このため、非排水条件では体積の増加に比べ間隙水圧の減少度合いが小さくなる。
推論2
ひずみゲージにより計測された体積ひずみが、岩石の平均的な体積ひずみと異なっている。
推論1についてはこれを否定する事実があります。仮に、微少破壊に伴う体積の増加に、間隙水を含まないクラックの開口が寄与しているとすれば、このクラックの開口による体積ひずみは拘束圧によってのみ左右され、間隙水圧の影響を受けないはずです。しかし、体積ひずみは不明瞭とはいえ概ね封圧と間隙水圧の差に依存していました。また、図-6でも体積ひずみと間隙水圧には強い相関があります。このことから、この原因は排水条件での実験結果からの帰結と同様に、ひずみゲージが貼付されている岩石試料の中央部表面付近で微少破壊が活発に生じ、試料の平均以上の体積膨張がひずみゲージによって計測されているためと考えられます。
ちなみに、間隙水の体積弾性定数は2GPaほどです。間隙水圧が10MPa変動したとすると、このときの間隙水の体積ひずみは0.5%となります。間隙水の体積は岩石試料の体積×空隙率であり、間隙水の体積ひずみにこの体積を乗じて水の(空隙の)変形量を求め、これを岩石試料の体積で除せば岩石試料全体での体積ひずみとなります。仮に、空隙率を0.2とすれば0.1%の体積ひずみの増加として計測されます。岩石が圧縮変形を受けている範囲では、概ねこの割合で体積ひずみが発生していますが、岩石が膨張していく過程では、間隙水圧変化から推定される体積ひずみの数倍の体積ひずみが計測されています。このことは,ひずみゲージが貼付されている岩石試料中央部の表面付近で,微小破壊や開口したクラックの発生が偏って生じているためと考えられます。試料端部では、エンドキャップとの摩擦による変形拘束効果があると考えられ、この付近では微少破壊やクラックの開口が制限されていると推測できます。
次回からは、水で飽和した岩石試料を用いた実験から得られた知見をもとに、岩石中で生じている現象を理論的に検討してみます。