技術資料

Feel&Think

第8回 水を吸い込む岩石

担当:里 優
2017.08

前回では、水で飽和させた岩石を用い排水条件での挙動を調べたところ、拘束圧と間隙水圧の差(有効拘束圧)が同じ場合には似たような挙動を示すことや、拘束圧と間隙圧の差が小さいほど低い軸差応力から体積の膨張が始まることなどがわかりました。このときの岩石内部で生じている現象を、他の計測結果から推測してみます。

水で飽和させた岩石でも、AEや弾性波速度の計測を行っていますので、まずこれらを見て行きましょう。図-1が軸差応力とAE発生数の関係です。飽和状態の岩石であっても盛んにAEが発生し、岩石内部で微少破壊が発生していることがわかります。図-2に示した径方向のP波速度の変化も、乾燥した岩石の場合と同様に軸差応力の増加とともに減少し、軸方向への開口したクラックの伸長を想像させます。

図-1 排水条件での軸差応力とAE累積数の関係
図-1 排水条件での軸差応力とAE累積数の関係
図-2 排水条件での軸差応力と径方向P波速度比の関係
図-2 排水条件での軸差応力と径方向P波速度比の関係

図-3は、軸差応力に対する岩石からの排水量の変化を示しています。軸差応力を加えた当初は、圧縮応力の増加によって岩石は圧縮され間隙水が絞り出されます。その後、軸差応力が大きくなり微少破壊が生ずるようになると、間隙水は排水されなくなり、逆に吸い込みが発生しているものも見られます。このことは岩石内部に空隙が発生していることを示しており、軸差応力を増加させると逆に水が吸い込まれるという現象となって表れています。また、拘束圧と間隙水圧の差である有効拘束圧が小さいほど、吸込みの度合いが大きくなっていることもわかります。これらのことも、開口したクラックの発生と伸長の度合いが有効拘束圧に依存することを示しています。

図-3 排水試験における軸差応力と排水量の関係
図-3 排水試験における軸差応力と排水量の関係

図-4には、体積ひずみより計算した岩石の体積変化と排水量の関係を示しました。

図-4 排水試験における排水量と体積変化の関係
図-4 排水試験における排水量と体積変化の関係

両岩種とも、体積が収縮を続けている範囲では、岩石の体積変化と排水量はほぼ一致していますが、微少破壊が発生し岩石の体積が増加傾向を示す範囲では、間隙水の流入量は体積の増加量を大きく下回っています。このことは、軸差応力に対して体積が収縮をしているような、微少破壊を伴わず弾性的な変形をしている範囲では、間隙水で満たされた空隙の変形が体積の変化の大部分を担っていることを示しています。一方で、微少破壊が発生すると、ひずみゲージが示す体積変化と岩石からの排水量が異なっていることも示しています。この原因については、次のような推論ができます。

推論1
体積の増加には、間隙水を含まないクラックの開口が寄与している。このため、体積の増加に比べ間隙水の流入が小さくなる。
推論2
ひずみゲージにより計測された体積ひずみが、岩石の平均的な体積ひずみと異なっている。

推論1についてはこれを否定する事実があります。仮に、微少破壊に伴う体積の増加に、間隙水を含まないクラックの開口が寄与しているとすれば、このクラックの開口による体積変化は拘束圧によってのみ左右され、間隙水圧の影響を受けないはずです。しかし、体積変化は概ね拘束圧と間隙水圧の差に依存しています。このことから、この原因は推論2に示すとおり、ひずみゲージが貼付されている岩石試料の中央部表面付近で微少破壊が活発に生じ、試料の平均以上の体積膨張がひずみゲージによって計測されていると考えるのが妥当でしょう。試料端部では、エンドキャップとの摩擦による変形拘束効果があると考えられ、この付近では微少破壊やクラックの開口が制限されていると推測できます。

次回は、同じく水で飽和させた岩石を用い、岩石からの水の出入りを禁止した非排水条件での試験結果を見て行きたいと思います。

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