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第6回 クラックは最大圧縮応力方向へ

担当:里 優
2017.06

初期クラック端での引張応力の集中により、この部分で引張破壊が発生し、開口を伴った二次クラックが発生すると考えることで、軸差応力を増加させた際の岩石の膨張を合理的に説明できることを、前回までに説明しました。では、この二次クラックはどの方向へ伸びていくのでしょうか。

実験の結果では、P波速度の計測結果などから、軸差応力の増加とともに岩石試料軸方向と平行で開口したクラックが発生していると考えられました。このことは、二次クラックが最大圧縮応力方向へ向かって伸長していることを示唆しています。今回は、これを理論的に検証してみます。

まず、軸差応力により初期クラックが滑動し、先端部の引張破壊によって両端から二次クラックが発生して、これが直線的に伸びて行った場合を想定します。これを図-1の(a)のようにモデル化します。この二次クラックが初期クラックに比べ充分長くなると、初期クラック面は剛体的に滑動するようになります。したがって、二次クラックの挙動を考える上では、初期クラック面の存在を無視して、初期クラックと二次クラックからなる系を、二次クラックだけの直線状のクラックとして近似的に取り扱うことができます(図-1(b))。このとき、滑動していなければ初期クラック面に生ずべきせん断応力τは、二次クラックの中央部に集中荷重Pとして作用すると考えることができます。この集中荷重Pは、二次クラックを開口させるとともに、軸差応力の増加に比例して大きくなることから、二次クラックが伸びていく原動力となります。一方、二次クラック面には圧縮応力σnが作用し、これは二次クラック面を閉じさせようとします。

図-1 初期クラックから発生する二次クラックのモデル化
図-1初期クラックから発生する二次クラックのモデル化

二次クラックも常に先端部の引張破壊によって伸び続けていくと考えると、この伸長に関与する力は、圧縮応力σnと、集中荷重Pの二次クラック面の法線方向成分Pnです。これらを求めると次のようになります。

数式1
数式2

ここに、2aは初期クラックの長さ、θδはそれぞれ初期クラック、二次クラックの最大圧縮応力方向に対する角度です。

引張り変形をしながら伸長する二次クラックは鋭い形状をしていると推測でき、先端における引張破壊に対する抵抗は、ここに生じている引張応力集中に比べ充分小さいと考えることができます。すなわち、Pnによって二次クラック先端に生ずる引張応力集中の大きさが、σnによって二次クラック先端に生ずる圧縮応力集中の大きさを上回っている間は、二次クラックは伸び続けます。

前回を思い出していただくと、鋭いクラック先端近傍の応力状態が式(3)で近似できることを示しました。rが0に近づくほど大きな応力が発生していることがわかります。式中のKは、クラックの長さとクラックに作用する力からなる関数で、応力拡大係数と呼ばれます。

数式3

破壊力学によれば、Pnσnそれぞれの応力拡大係数は次式で与えられます。

数式4
数式5

ここに、2cは二次クラックの長さです。この二つの力により生ずる二次クラック先端の応力の和が0となり、応力集中が解消されるまで二次クラックは伸長します。したがって、二次クラックの長さは次のようにして求めることができます。

数式6
数式7
数式8

式(1)と式(2)を考慮し整理すると、二次クラックの長さとして次式が得られます。

数式9

式(9)をもとに、二次クラックの最大長を与える伸長角度δと(σ1σ2)/σ2の関係を求めると、図-2のようになります。同図では、θ=15゚~75゚の角度を持つ初期クラックについて、二次クラックの長さが最大となる伸長角度δを、(σ1σ2)/σ2との関係で示しました。軸差応力(σ1σ2)が拘束圧σ2に比べ大きい範囲であれば、最大圧縮応力方向に伸長する二次クラック(δ=0)が最も長くなると近似できます。

図-2 二次クラックの伸長角度と応力状態
図-2 二次クラックの伸長角度と応力状態

このとき、二次クラックの相対長は次式で与えられます。

数式10

すなわち、開口した二次クラックが最大圧縮応力方向に伸長すると近似すれば、二次クラックの長さは軸差応力に比例し、拘束圧に反比例することになります。

このことは、実験結果と極めて整合的です。実験では、AEやP波速度の計測から、軸差応力の増加とともに微少破壊が発生し、これに呼応して径方向のP波速度が低下していきました。同時に体積ひずみが収縮から膨張に転じ、岩石内に空隙が発生していると考えられました。また、P波速度の低下や膨張ひずみの発生は、拘束圧の増加により抑制されていました。これは、開口した二次クラックが最大圧縮応力方向に伸長し、この長さは軸差応力に比例し拘束圧に反比例すると考えると、合理的に説明ができます。

次回からは、水で飽和した岩石試料を用いた実験結果を紹介します。水(間隙水)の圧力が岩石の挙動に大きな影響を与えていることが理解いただけるはずです。

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