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第5回 開口したクラックの発生

担当:里 優
2017.05

岩石の三軸圧縮試験では、軸差応力を加えていくと微少な破壊が活発に生じ、体積が収縮から膨張に転ずることや、岩石試料軸方向と平行で開口したクラックが発生していると考えることで実験結果が説明できることがわかりました。今回は実験をいったん離れ、理論的にこのクラック発生のメカニズムを検討してみたいと思います。

実験結果からは、微少破壊の発生とこれに続く開口したクラックの発生という、二つの現象が起こっていると考えられます。そこで、これらを分けて考えてみます。

まず、微少破壊の発生ですが、これはこれまでに何度か登場した局所引張応力によって生ずると考えます。この局所引張応力は、鋭い先端を有する空隙が発生源です。理論的な検討をわかりやすくするため、これを図-1のように鋭い先端部分を直線状のクラックとしてモデル化し、「初期クラック」と呼ぶこととします。

図-1 初期クラックのモデル化
図-1 初期クラックのモデル化

このクラックの鋭い先端部には、軸差応力の増加によるクラック面のせん断変形に伴って極めて大きな応力集中が発生し、ここから新たなクラックが発生すると考えます。この新たなクラックを「二次クラック」と呼ぶことにします。このような、クラック先端部での極めて大きな応力集中が新たなクラックをさせるという概念は、Griffisが1924年に発表しています。今から100年近く前ですね。これが発端となり、現在では破壊力学と呼ばれる学問分野で、クラックの発生や伸長の理論が体系化されています。

破壊力学によれば、軸差応力によってせん断変形を受けるクラックの先端近傍の応力状態は、図-2のような極座標系で式(1)のように表されます。

図-2 せん断変形を受ける初期クラック
図-2 せん断変形を受ける
初期クラック
数式1

式中のKは、クラックの長さとクラックに作用する力からなる関数です。注目すべき点は、クラック先端に近づきrが小さくなると、応力の値は極めて大きくなることです。したがって、初期クラック先端近傍では圧縮・引張・せん断応力の集中により構造が破壊され、ここから二次クラックが発生すると考えられます。

しかし、初期クラック先端部の圧縮応力の集中により発生し、圧縮変形をしながら伸びていく二次クラックというのは物理的に考えられません。図-3に示すように、せん断応力の集中によって発生し、せん断変形をしながら伸びていく二次クラック(せん断クラック)が発生するか、引張応力の集中によって発生し、引張り変形をしながら伸びていく二次クラック(引張クラック)が発生すると考えるのが自然です。図を見てもわかるとおり、岩石のような不均質な構造の中をせん断クラックが伸びていくとは考えにくく、二次クラックが発生するとすれば、変形のし易さからも、引張の応力集中により発生し開口しながら伸びていくクラックであると考えるのが妥当です。

図-3 二次クラックの発生形態
図-3 二次クラックの発生形態

実験結果を振り返ってみると、AEを発生させるような微少破壊が増加してくると体積の膨張が始まっていました。まだ、P波速度も小さくなりました。これらのことは、軸差応力の増加に伴い初期クラックの先端部で引張応力の集中が生じ、ここから開口を伴った二次クラックが発生すると考えることで、合理的に説明できます。この初期クラックや二次クラック端部での引張応力こそが、岩石を破壊に至らしめる局所引張応力の正体です。次回は、この二次クラックがどの方向へ伸びていくのかを理論的に検討します。

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