技術資料

Feel&Think

第4回 新しいクラックの発生

担当:里 優
2017.04

前回は、軸差応力を増加させていくと、体積ひずみが収縮から膨張に転じ、岩石内部で空隙が増加していくと考えられることを示しました。今回は、このとき岩石試料内で新しい空隙が発生していることを、他の計測データからも検証してみたいと思います。

用いた三軸圧縮装置では、岩石が発生するAE(Acoustic Emission)と弾性波速度を計測することができます。これらの仕組みを、図-1から図-3 に示します。いずれもセンサや発振源として、圧電素子(共振周波数1MHz)を用いています。

AEは岩石試料が発する微少な音であり、パルス状の振動ではなく、地震動のように振幅が増加して減少する波形をしています(図-2)。このため、AEは岩石内部で生じた破壊現象の結果発生したものと考えられています。計測が試みられた当初は、Seismic Noise(地震様の雑音)と呼ばれました。圧電素子からの電圧波形は、プリアンプとディスクリミネータで増幅した後、包絡線検波が施こされます。包絡線検波後の信号が下しきい電圧VLを超え、次にVLを下回った時に1個のAEイベントとして数えることとしました。ただし、信号が上しきい電圧VHを上回っている時間(持続時間)twが10μs以下、あるいは100ms以上の場合は、この信号をノイズと見なして計数していません。

弾性波速度の計測では、岩石試料の軸方向と径方向の両方の計測ができるようにしています(図-3)。圧電素子を選択することで、P波速度とS波速度を計測することができます。

図-1 AE計測システム
図-1 AE計測システム
図-2 AEの波形と個数のカウント
図-2 AEの波形と個数のカウント
図-3 弾性波速度計測システム
図-3 弾性波速度計測システム

図-4は、軸差応力とAE発生数の関係を示しています。軸差応力が増加するとAEが活発に発生し、発生数は軸差応力が大きくなるにつれ指数関数的に増加していることがわかります。図-5は、このときの岩石試料軸方向のP波速度の変化です。P波速度は、初期等方状態の速度に対する比で示しました。軸方向の速度は、軸差応力の増加に対してほぼ線形に大きくなっていきます。ただし、速度増加率は10%程度です。一方、図-6に示す径方向のP波速度は、軸差応力の増加に対し指数関数的に減少し、減少率も20~30%と大きくなっています。

図-4 軸差応力とAE累積数の関係
図-4 軸差応力とAE累積数の関係
図-5 軸差応力と軸方向P波速度比の関係
図-5 軸差応力と軸方向P波速度比の関係
図-6 軸差応力と径方向P波速度比の関係
図-6 軸差応力と径方向P波速度比の関係

この実験結果からわかることは、AEの発生が示すとおり、軸差応力が大きくなると岩石内で微小な破壊が発生し、軸差応力の増加とともに破壊活動が活発となっていくことです。この微小破壊は、次に述べるとおり、専ら岩石試料径方向のP波速度を減少させます。

AEの発生数と岩石試料軸方向のP波速度の関係を、図-7に示しました。軸方向のP波速度の増加の大半はAEが発生し始める前に生じており、AEが活発に生じ始めてもP波速度はほとんど変化しません。すなわち、軸方向で見られるP波速度の増加は岩石内の微小破壊とは関係なく、例えば軸方向の圧縮変形による空隙の閉鎖のような、静かな構造変化によるものと考えられます。

図-7 AE累積数と軸方向P波速度比の関係
図-7 AE累積数と軸方向P波速度比の関係

径方向については、図-8に示したAE発生数と岩石試料径方向のP波速度の関係からわかるとおり、AEの発生に比例して径方向のP波速度が低下していきます。これらのことは、AEを発生させる微少な破壊が、岩石試料径方向のP波速度の低下を引き起こすような構造変化を、岩石内部に生じさせていることを示唆しています。この構造変化の最も合理的な説明は、微少破壊により軸方向と平行で開口したクラックが発生した、とすることです。ここでクラックという言葉を使ったのは、新しく発生した空隙が扁平な形状をしていると考えられるからです。軸方向と平行で扁平な形状をし開口したクラックは、軸方向のP波速度に影響を及ぼさず、径方向には回折や散乱によりP波速度を減少させると考えられます。

図-8 AE累積数と径方向P波速度比の関係
図-8 AE累積数と径方向P波速度比の関係

図-8からはまた、拘束圧が大きくなると、同じ数のAEが発生しても径方向のP波速度が低下しにくくなる傾向があることがわかります。すなわち、拘束圧が大きくなっても微少破壊は同様に発生するが、これにより生じた、軸方向と平行で開口したクラックは小さいものとなり、径方向のP波速度が減少しにくくなる、と考えることができます。

今回示した計測データからは、軸差応力の増加に伴って開口したクラックが発生することがわかりました。これは、前回説明した、軸差応力の増加に伴う体積の膨張とも整合しています。次回は、これらの実験結果を踏まえ、岩石内部で生じている引張クラックの発生や伸長を理論的に検討してみたいと思います。

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