技術資料

Feel&Think

第12回 モニタリングを身近に

担当:里 優
2022.02

本シリーズでは、地下水の変動と地盤の変形との関係に注目し、幾つかの事例を紹介してきました。前半部では、国土の防災を目的として行われている、地盤変形や地下水位のモニタリングをご紹介しました。

国土地理院では、GNSSを利用して電子基準点と呼ばれる計測点の座標を求め、これを地殻変動の観測に活用していました。宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、SAR衛星「だいち2号」(ALOS-2)を用いて地表面形状の計測が行われ、結果は地震や断層、火山の活動のモニタリングに活用されていました。防災科学技術研究所では、地震動を精密に観測するための2つの強震観測網(K-NET、KiK-net)が運用されていました。また、産業技術総合研究所地質調査総合センターでは、東海から四国にかけて設置された50ヶ所あまりの深井戸において、地下水位などの計測が行われ、最新データがWell Webと呼ばれるサイトで公開されていました。

後半部では、地盤変形と地下水流れの関係を記述した間隙弾性論を紹介するとともに、これを応用し、地下水汲み上げと地盤沈下、地震時の液状化、断層変形と地下水圧の関係について考察を加えました。また、地震直前の地下水位の変化についても検討しました。
これらをご覧いただくと、地下水の変動と地盤の変形とには密接な関係があり、地震防災や社会インフラの保全の観点から、地下水観測が重要であることに気づいていただけたと考えています。

地層科学研究所では、このような観点からGeo-Vizmo(ジオ・ビズモ)と名付けた地下水情報のモニタリングを、クラウドサービスとして開発中です。

Geo-Vizmoのブラウザ画面
Geo-Vizmoのブラウザ画面

Geo-Vizmoでは、井戸やボーリング孔に水位計とLTE通信を備えた計測ユニットを設置し、クラウドにデータを送信してデータを蓄えるとともに、ブラウザなどに表示し管理者に最新情報を提供します。
地下水位データだけではなく、最寄りのアメダス、K-NET、電子基準点のデータを検索し、降雨や地震、地表面の変形に関するデータも表示します。電子基準点の代わりに、独自に設置したGNSS計測点があれば、その値を表示することもできます。
さらに、井戸の付近の地盤を対象とした浸透流解析を実施し、地下水圧の分布や流速などの推定結果も表示します。これにより、地下における地下水の状態を可視化することができます。また、計測された地下水位と解析結果を比較し、逆解析を実施すれば地下の透水性分布などを推定することも可能です。

クラウドを使ったモニタリングの概念
クラウドを使ったモニタリングの概念

これらのデータからは、次のような情報を引き出すことができます。

  • 地震に対する地下水位変化の鋭敏性
    地震時に地下水位がどのように変化するかを調べることで、井戸付近の地盤が液状化しやすさや、遠方の断層変形の影響度合いを評価することができます。
  • 法面の安定性
    降雨時に盛土内の水位を観測することで、有効応力変化に伴う安定性の変化を評価することができます。また、堤防内の地下水位と河川水位の同時観測を行うことで、豪雨時の堤体の安定性を評価することができます。地下水排除工などの地滑り対策の効果検証にも活用できます。
  • 地下構造物建設の影響
    地下構造物建設時に、地表面変位と地下水位の変化を観測することで、揚水や地下水位低下工法などの影響を評価することができます。

このように、地下水位の計測は多くの情報を提供してくれます。積極的なモニタリングをお勧めします。


※サービスや資料等最終参照日:2022年2月

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