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第9回 地震による液状化

担当:里 優
2021.11

地震と地下水の関連で最も印象的なものは、地震による液状化現象です。液状化現象は、地震動により地盤の構造が損傷し、それまで負担していた応力が負担できなくなり、この分を地下水が負担することで間隙水圧が上昇して地下水の流動が発生する現象です。
これを、第7回に示したBiotの方程式で見てみます。
地震前の平均応力、体積ひずみ、間隙水圧の関係は次式で表されます。

数式1

地震中に地盤の損傷が発生し、地震後は体積弾性定KKeに減少したとします。地震動は極めて短時間に生じ地下水流れが発生しないため、体積ひずみは変化することができません。また、地震後でも全応力は変化していないので、上記の関係式は次のようになります。

数式2
数式3

すなわち、地震による地盤の損傷で、地震後にΔPの間隙水圧が液状化層で増加します。その後、時間経過とともに間隙水圧の増加分ΔPは消散してゆき、体積ひずみが増加していきます。

数式4
数式5

この過程を、G-SUPRAを使って表現してみましょう。多くの研究では、地盤の応力‐ひずみの関係として複雑な弾塑性構成式が用いられていますが、ここでは現象を単純化し、地震動により地盤のヤング率が1/10になったと仮定し、地震動終了後の間隙水圧変化や地盤の変形を調べてみます。ただし、液状化現象の本質は捉えている仮定と考えます。
最初に、地震直後の変形と充分時間が経過した後の変形を見てみましょう。グレーの領域が液状化層です。時間の経過とともに、液状化層で圧縮変形が発生することがわかります。

変位分布図(上:地震動終了直後)
変位分布図(下:充分な時間経過後)
変位分布図(上:地震動終了直後、下:充分な時間経過後)

次に、間隙水圧の変化を見ていきます。地震動により剛性が低下した直後は、液状化層で間隙水圧の増加が発生します。これにより液状化層より外向きの地下水流れが発生し、液状化層の外側の間隙水圧が増加していき、地下水位が上昇していきます。

間隙水圧分布の変化(上:地震による剛性低下で液状化層の間隙水圧が上昇)
間隙水圧分布の変化(中:その後、液状化層から地下水流れが発生し地下水位が上昇)
間隙水圧分布の変化(下:時間の経過とともに間隙水圧は静水圧分布へ収束)
間隙水圧分布の変化(暖色:小、寒色:大、最暖色の底面が地下水面)
上:地震による剛性低下で液状化層の間隙水圧が上昇
中:その後、液状化層から地下水流れが発生し地下水位が上昇
下:時間の経過とともに間隙水圧は静水圧分布へ収束
地下水流速分布の変化(上:地震直後)
地下水流速分布の変化(下:充分な時間経過後)
地下水流速分布の変化(上:地震直後、下:充分な時間経過後)

液状化層では一旦増加した間隙水圧は減少していき、これに伴って地盤が沈下していきます。いわゆる圧密変形です。このときに発生した地下水位の変化と地盤沈下の経時変化をグラフで示します。

地震後の地下水位の経時変化
地震後の地下水位の経時変化
地震後の地表面沈下の経時変化
地震後の地表面沈下の経時変化

今度は、地盤の上に家屋などの重量物が存在する場合の結果を見てみましょう。
終了直後の間隙水圧増加は、重量物の影響で重量物に挟まれた領域で大きくなることがわかります。これにより発生した地下水流れによって間隙水圧が消散すると、重量物に挟まれた領域で沈下変形が大きくなり、重量物は互いの方向に傾くようになります。東日本大震災で発生した宅地の液状化でも見られた特徴的な変形です。

地震後充分な時間が経過した後の変位分布
地震後充分な時間が経過した後の変位分布
地震直後の間隙水圧分布(暖色:小、寒色:大、最暖色の底面が地下水面)
地震直後の間隙水圧分布(暖色:小、寒色:大、最暖色の底面が地下水面)
ある時間での地下水流速ベクトル分布
ある時間での地下水流速ベクトル分布

このように、液状化現象もまた、地下水と地盤変形が密接に関連していることを示す好例です。

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