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第8回 地下水位低下と地盤沈下

担当:里 優
2021.10

今地下水位の変化が地盤の変形に及ぼす影響が明瞭な現象の一つが、地下水の揚水に伴う地盤沈下です。地層科学研究所ではG-SUPRA*と名づけた連成解析ソフトウェアを開発していますが、これを使って地盤沈下の様子を再現してみましょう。
前回紹介したBiotの連成方程式は、次のようなものでした。
*G-SUPRA:自社開発ソフトウェア(販売しておりません)

数式1-3

ここに、εv 地盤の体積ひずみ、σm平均応力、 p は間隙水圧、Kは排水条件(Δp=0)での 等方応力載荷実験で得られる体積弾性定数、記号は平均応力や間隙水圧が変化することで生じた間隙水の体積変化(単位体積中を出入りした間隙水の体積)、αBは実験定数です。

式が意味するところは、式(2)のように出ていった水の体積分だけ地盤の体積が減少するということです。αやBは1に近い値のため、式(2)の右辺第2項は小さな値となるためです。実際には、揚水の仕方や境界条件によって応力も変化しますが、概ねこう考えてよいと思います。

下図が解析に用いたモデルで、緑色の要素から地下水を揚水します。茶色の部分には地中連続壁が設けられてることとし、要素の剛性を上げて透水性を下げてあります。

解析モデル(側面:水平変位拘束・地下水流れ拘束、底面:鉛直変位拘束・間隙水圧拘束)
解析モデル
(側面:水平変位拘束・地下水流れ拘束、底面:鉛直変位拘束・間隙水圧拘束)

次図が、解析によって得られたある時刻の流速ベクトルの分布です。揚水されている要素に向かって地下水が流れることや、地中連続壁を回り込む流れが生じていることがわかります。

流速ベクトル分布図
流速ベクトル分布図

この時の変位分布と間隙水圧分布を以下に示します。地表面が沈下することや、これに引きずられて、地中連続壁が傾いていることがわかります。このような沈下変形を引き起こしているのが間隙水圧の低下です。これにより地盤の有効応力が増加し、地盤の沈下や傾斜が生じます。

変位分布図
変位分布図
間隙水圧分布図(暖色:小、寒色:大)
間隙水圧分布図(暖色:小、寒色:大)

揚水とちょうど逆の現象となるのが注水です。この代表例が二酸化炭素の地中貯留です。注水ではなく、超臨界状態となった二酸化炭素を透水性の比較的高い地層に注入し、ここに封じ込めることで、大気中の二酸化炭素濃度を減少させようという狙いです。
二酸化炭素の注入時に発生する地盤変位を、G-SUPRAを使って求めてみました。下図がその結果です。モデルは左端鉛直軸を中心とした軸対称で、モデル中心に設置したボーリング孔の一部から注入が行われています。注入により地盤に膨張方向の変形が発生し、この結果、地表面が隆起する様子がわかります。

変位分布図(軸対称モデル)
変位分布図(軸対称モデル)

実際に行われたアルジェリアのIn Salahプロジェクトでは、天然ガスを採取後に二酸化炭素を分離し、これを地下1.8kmの石炭紀砂岩層(層厚約20m)に注入しています。このときの地表面変位を、本シリーズで何回か紹介した干渉SAR解析で求めた結果が文献に示されています。二酸化炭素の注入孔付近で地表面の隆起が観測されており、これをもとに地下の超臨界二酸化炭素の動きを推定することもできそうです。

地表面の鉛直変位分布1)
(暖色:隆起、寒色:沈下、赤丸+棒は天然ガス採取孔、青丸+棒は二酸化炭素注入孔)
地表面の鉛直変位分布1)
(暖色:隆起、寒色:沈下、赤丸+棒は天然ガス採取孔、
青丸+棒は二酸化炭素注入孔)

このように地下水流れと地表面の変形には密接な関係があります。次回は、同様の観点から液状化現象を考察します。


参考文献
1) 山本他:干渉SARの地表面変位観測によるCO2地中挙動モニタリング手法に関する数値解析的検討,第40回岩盤力学に関するシンポジウム講演集,p.132-137,2011.

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