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第6回 K-NETデータを用いた変形モニタリング

担当:里 優
2021.08

今回は、熊本地震で観測された地震動そのものを取り上げます。本シリーズ「第1回 はじめに」で紹介したように、防災科学技術研究所ではK-NET(Kyoshin Net:全国強震観測網)が運用されており、これは全国約1000カ所に約20kmの間隔で地表に設置された地震計で構成されています。
熊本地震の震源付近に配置された観測点を下図に示します。

熊本地震の震源付近に配置された観測点の図
熊本地震の震源付近に配置された観測点

K-NETの地震計で得られるデータは加速度の時刻歴ですが、これを2階積分することにより変形を求めることができます。得られるものは、観測点の地盤変形の時刻歴です。そこで、熊本地震(本震)時の地盤変形を7箇所の観測点で求め、同時に表示してみます。

加速度を積分する方法の最もシンプルな方法は、台形公式を使うものです。この方法では、加速度データに含まれている低周波成分やノイズの影響で、変位が極端に大きく評価される場合がほとんどです。低周波成分は、積分操作で常に加え続けられるためです。

これを避けるために、加速度データにローカットフィルタを施すことになりますが、これには加速度データをフーリエ変換する必要があります。フーリエ変換は、加速度データを一定の周波数を持つ無数の波の組み合わせで表し、時刻歴データを周波数領域に変換します。式で書くと次のようになります。

数式1

ここに、Xがフーリエ変換後の周波数データ、xがもとの加速度時刻歴です。
どうせこの操作をするのであれば、いっそのこと周波数データを使って積分し、ついでにフィルタをかける方法が考えられます。これは次のようにして行います。
フーリエ変換後の周波数データをもとの時刻歴データに戻す操作を、逆フーリエ変換と呼びます。式で書くと次のようになります。

数式2

この両辺を時刻tで微分すると、

数式3

が得られ、もう1回微分すると次式となります。

数式4

このように、逆フーリエ変換に対する微分は右辺の指数関数の微分操作となります。これを逆にたどれば積分操作となります。xの2階微分を加速度データとすれば、これをフーリエ変換して得られた周波数データをω2で割り、これを逆フーリエ変換することにより、x、つまり変位の時刻歴が求まります。積分操作が、周波数領域では割算になるわけです。
フィルタも周波数データのうち不用な部分を削除すればよくなります。実際に熊本地震時に得られた加速度データを、この方法で積分してみました。観測点KMM006、KMM005、KMM002で得られた東西方向のものです。ローカットフィルタ0.3Hzとハイカットフィルタ10Hzを施してあります。

KMM006における加速度時刻歴(東西方向、K-NET)
KMM006における加速度時刻歴(東西方向、K-NET)
KMM005における加速度時刻歴(東西方向、K-NET)
KMM005における加速度時刻歴(東西方向、K-NET)
KMM002における加速度時刻歴(東西方向、K-NET)
KMM002における加速度時刻歴(東西方向、K-NET)

変形データが得られましたが、前回までに示したような数10cmに達する変位ではありません。これは、ローカットフィルタにより残留変形のような変位が除かれているためです。
このように、加速度データからの積分では絶対変位は求められません。

KMM006における変位時刻歴(東西方向、K-NET)
KMM006における変位時刻歴(東西方向、K-NET)
KMM005における変位時刻歴(東西方向、K-NET)
KMM005における変位時刻歴(東西方向、K-NET)
KMM002における変位時刻歴(東西方向、K-NET)
KMM002における変位時刻歴(東西方向、K-NET)

一方で、地震動がどのように伝わって行ったかは、観測点の変位データを同時に表示することで推定することができます。下図に、7観測点の変位データをベクトル表示し、動画で示します。観測点の距離が離れているためにわかりにくいですが、観測点が密であれば地盤震動の様子も推定できる可能性が示唆されています。

観測点の変位をベクトルで表示(動画)
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