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第5回 干渉法で見る熊本地震

担当:里 優
2021.07

国土地理院が提供する「地理院地図(電子国土Web)」のサイトでは、SAR衛星による干渉SAR解析結果を閲覧することができます。今回は、本シリーズで何度か取り上げた熊本地震を対象とした解析結果を見てみます。

以下の図に、地理院地図サイト(電子国土Web)に掲載されている、熊本地震時の変形分布を示します。図では、干渉縞表示ではなく、干渉縞の本数から求まる変形量をコンター図で表しています。

各図には、変形が不連続となる境界線が現れており、この部分で滑り変形が発生したことが明瞭にわかります。変形量も多いところでは1m以上となっています。このように、SAR衛星から観測することにより、広域の変形を精密に調べることができ、地殻変動や防災に応用できることがわかります。

干渉SAR解析により得られた変位量(熊本地震、東西方向)
干渉SAR解析により得られた変位量(熊本地震、東西方向)
干渉SAR解析により得られた変位量(熊本地震、南北方向)
干渉SAR解析により得られた変位量(熊本地震、南北方向)
干渉SAR解析により得られた変位量(熊本地震、上下方向)
干渉SAR解析により得られた変位量(熊本地震、上下方向)

滑り変形が計測されている領域を囲むように、本シリーズ第3回で紹介した電子基準点が配されています。電子基準点の変位を用いた分析結果を以下に再掲します。食い違い変位やせん断ひずみのようすは、干渉SARによる解析結果とも整合しています。このように、SAR衛星と電子基準点のデータをあわせて分析することで、地殻変動の原因や影響を詳細に分析することができます。

各観測点の変位ベクトル(水平面内)
各観測点の変位ベクトル(水平面内)
最大せん断ひずみの分布
最大せん断ひずみの分布

本シリーズでは地下水の観測の重要性をお伝えすることを主眼としていますが、熊本地震直後に熊本市内の名勝水前寺成趣園の池が枯れるなど、地下水に関する異変が発生したことが知られています。熊本大学では、継続的に市周辺94カ所の地下水観測井戸の水位や水質の変化を分析しています。研究によると、地震の数分後から市周辺で地下水位が最大約5m低下したことなどが明らかとなっています。
このように、地震による地盤の変形と地下水流れの変化には、密接な関係があります。

風景写真

参考文献:細野他:熊本地震による地下水環境変化,日本水文科学会誌,vol.17,No.2,pp.127-130,2017.
参考サイト:2019/4/10付 西日本新聞朝刊
※資料等最終参照日:2021年7月

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