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第8回 トンネル掘削と地表面沈下(3)

担当:里 優
2026.05

今回は、トンネル掘削後充分な時間が経過した後に、新たに注入工を施した場合を調べてみることにします。トンネルの湧水が多くなり、トンネル周囲の透水性を減ずる措置を講じた場合に相当します。
注目点は、前回同様にこの措置が地下水位の低下や地表面沈下、あるいは地盤の安定性に及ぼす影響です。

解析では、トンネルを無支保で「瞬時」に掘削し、その後そのまま放置し十分な時間排水が進んだ状態で注入工を施します。この後に引き続き生ずる現象を調べます。
解析モデルを図1に示します。モデルの寸法や物性値、境界条件などは、前回と同じです。また、注入工を施した領域では地盤の剛性と同じとし、透水係数として地盤に比べ一桁小さな値を用いました。

図1 解析モデル(オレンジ部が注入工)
図1 解析モデル(オレンジ部が注入工)

最初に、注入工施工後に生ずる地下水面の変化見てみましょう。注入工がない状態で長時間経過した後は、トンネル直上部まで地下水面が降りています。注入工が施されることにより、トンネル内空に向かう地下水流れが制限され、地下水面が上昇していくことがわかります。時間が経過すると定常状態となり、地下水面は動かなくなります。

図2 地下水面の変化
図2 地下水面の変化

地表面の変化を図3に示します。ただし、掘削時の変位からの増分です。時間の経過とともに地表面の隆起が進んでいきます。これは、間隙水圧の上昇に伴う地盤の膨張変形によるものです。
このときのトンネル断面の変位を、図4に示します。トンネル断面は全体的に隆起し、隆起量に比べ内空変位は小さくなっています。

図3 地表面沈下の比較(単位:m)注入工施工前
図3 地表面沈下の比較(単位:m)200時間後
図3 地表面沈下の比較(単位:m)1000時間後
図3 地表面沈下の比較(単位:m)
図4 トンネル断面の変位(単位:m)注入施工前
図4 トンネル断面の変位(単位:m)200時間後
図4 トンネル断面の変位(単位:m)1000時間後
図4 トンネル断面の変位(単位:m)

次に、間隙水圧分布の変化を見てみます。注入工を施すことにより地下水のトンネル内への流入が抑制され、トンネル周囲の間隙水圧が時間の経過とともに上昇していきます。この間隙水圧の上昇は、地盤の隆起を招きます。
図6に示す地下水流速ベクトル分布を見ても、注入工により地下水のトンネル内空への流入が抑えられており、地盤の間隙水圧の増加を招いていることがわかります。

図5 間隙水圧分布(単位:MPa)注入施工前
図5 間隙水圧分布(単位:MPa)200時間後
図5 間隙水圧分布(単位:MPa)1000時間後
図5 間隙水圧分布(単位:MPa)
図6 地下水流速ベクトル分布(単位:m/h)注入施工前
図6 地下水流速ベクトル分布(単位:m/h)1000時間後
図6 地下水流速ベクトル分布
  (単位:m/h)

次に、地盤の破壊に対する安全率を見てみます。前回同様に、破壊条件はモールクーロン型とし、安全率は応力のせん断成分とこれに抵抗する成分の比とします。有効最小圧縮応力σ1’が正の場合は、引張破壊が生ずると考え安全率は0とします。

数式

ここに、Cとφはそれぞれ排水条件で計測された粘着力と摩擦角です。
安全率を求めるにあたっては、C=0.2MPa、φ=30°としました。

図7に得られた安全率分布を示します。注入工を施した後は、安全率の低い領域が大きくなっていくことがわかります。これは、図8に示すとおり、トンネル周辺で間隙水圧が増加するため、有効最小圧縮応力が小さくなるためです。

また、トンネル下部では安全率が0となっている領域も見られますが、トンネル下部で有効最小圧縮応力が正となる領域が生ずることに原因があります。

図7 安全率分布・注入工施工前
図7 安全率分布・1000時間後
図7 安全率分布
図8 有効最小圧縮応力(単位:MPa)注入施工前
図8 有効最小圧縮応力(単位:MPa)1000時間後
図8 有効最小圧縮応力(単位:MPa)

今回は、トンネル掘削後充分な時間が経過した後に、新たに注入工を施した場合を調べてみました。この結果、地下水位の上昇や地表面の隆起が生ずることや、注入工の領域内で地盤のせん断破壊や引張破壊が生ずる可能性があることがわかりました。
このように、湧水や地表面沈下を抑制する効果のある注入工ですが、設計にあたっては、これまで示してきた、地盤変形と地下水流れの相互作用に注意する必要があります。

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