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第5回 加速度時刻歴から層間変形を求める

担当:里 優
2023.01

加速度時刻歴データを時間に対して2回積分すると、計測点のある階の変位を求めることができます。階の上下で得られた変位の差をとることで層間変形が得られ、これを計測点間の高さで割ることで層間変形角が得られます。
層間変形角は階の間で発生したせん断ひずみの大きさを表しており、構造の損傷度合いと密接な関係がある、重要な指標です。今回は、計測された加速度時刻歴をもとに、層間変形角を求めてみます。まずは、変位の算定です。
変位を求めるには、加速度時刻歴をフーリエ変換して周波数領域に変換し、ローパス・ハイパスフィルタをかけた上で、周波数領域で積分に相当する処理を行います。これは、次のようなものです。
フーリエ変換は、式で書くと次のようになります。

数式1

ここに、Xがフーリエ変換後の周波数データ、xがもとの時刻歴データ、記号が角周波数です。
フーリエ変換後の周波数データをもとの時刻歴データに戻す操作を、逆フーリエ変換と呼びます。式で書くと次のようになります。

数式2

この両辺を時刻tで微分すると、

数式3

が得られ、もう1回微分すると次式となります。

数式4

このように、逆フーリエ変換に対する微分は右辺の指数関数の微分操作となります。これを逆にたどれば積分操作となります。xの2階微分を加速度データとすれば、これをフーリエ変換して得られた周波数データを記号1で割り、これを逆フーリエ変換することにより、x、つまり変位の時刻歴が求まります。積分操作が、周波数領域では割算になるわけです。フィルタも周波数データのうち不用な部分を削除すればよくなります。
次図に、このようにして得られた変位時刻歴の一例を示します。

図-1 加速度時刻歴の例1
図-1 加速度時刻歴の例1
図-2 例1の加速度時刻歴より求めた変位時刻歴
図-2 例1の加速度時刻歴より求めた変位時刻歴
図-3 加速度時刻歴の例2
図-3 加速度時刻歴の例2
図-4 例2の加速度時刻歴より求めた変位時刻歴
図-4 例2の加速度時刻歴より求めた変位時刻歴

各階で得られた変位時刻歴では、計測開始時刻が異なるため、時刻を一致させる処理(時刻同期)を行います。全棟で得られたデータについて時刻同期を行ったうえで、これを並べて描いた変位時刻歴を裏面に示します。拡大してみると、階が高くなるほど変位が大きくなり、上下の解で変形差が生じていることがわかります。これは層間変形と呼ばれ、これを計測点間の高さで割ることで層間変形角が得られます。

図-5 全階の加速度時刻歴より得られた変位時刻歴
図-5 全階の加速度時刻歴より得られた変位時刻歴
図-6 全階の加速度時刻歴より得られた変位時刻歴(拡大)
図-6 全階の加速度時刻歴より得られた変位時刻歴(拡大)
図-7 全階の加速度時刻歴より得られた変位時刻歴(再拡大)
図-7 全階の加速度時刻歴より得られた変位時刻歴(再拡大)

層間変形角は、建物構造の損傷を評価するうえで重要な指標です。建築基準法の第82条では、「建築物の地上部分については、第88条第1項に規定する地震力(以下この款において「地震力」という。)によって各階に生ずる水平方向の層間変位を国土交通大臣が定める方法により計算し、当該層間変位の当該各階の高さに対する割合(第82条の6第二号イ及び第109条の2の2において「層間変形角」という。)が1/200(地震力による構造耐力上主要な部分の変形によって建築物の部分に著しい損傷が生ずるおそれのない場合にあっては、1/120)以内であることを確かめなければならない。」とされています。
この要件を満たすように設計された建物が、実際の地震でどのように揺れ、層間変形角がどうなったかを調べてみることで、設計や施工の妥当性を確認することができます。
次回は、小さな地震での計測結果から大きな地震で建物が受ける影響を予測する方法を検討します。

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