技術資料
Feel&Think
第1回 凍上の研究
地盤を凍らせて強度を上げ、掘削工事などを行った後に解凍し現状に復帰させる、凍結工法と呼ばれる手法があります。凍結工法では地盤の強度増加だけでなく、凍結領域が止水されることから、掘削工事などが地下水環境へ及ぼす負荷を低減することができます。東京湾横断道路での立坑からのシールド発進や、最近では福島第一原発に流入する地下水の抑制に使われたことがよく知られています。
現在ではほぼ確立した工法ですが、過去には冷却速度によっては大きな凍結膨張が発生し、地盤を損傷する結果となることも経験しました。凍上と呼ばれる現象で、寒冷地の道路などでも見られます。
特に、1970年代に始まったLNGの地下タンク建設では、貯槽の温度が-162℃にも達することから、周辺地盤で凍上が発生し、膨張圧や隆起変形がタンクに加わり構造を不安定化することが懸念されました。
そこで凍上のメカニズムを探り、凍結工法や地下タンクの設計に役立てるため、多くの研究が行われました。最もよく知られた研究は高志ら1)2)によるものです。
高志らは、図-1に示す実験装置を用い、試料へ加える上載圧や冷却速度を変化させて多数の実験を行い、有名な高志の式を提案しました。
ここに、は凍結膨張率、は有効上載圧、Uは凍結速度であり、は実験定数です。
すなわち、凍結膨張率の増加は有効上載圧に反比例し凍結速度のに反比例するというものです。
今回のシリーズでは、変形・地下水流れ・熱移動の連成解析で、高志の式で表される特徴的な凍結膨張現象を表現してみたいと思います。過去のシリーズでは、凍結膨張を考慮した連成解析手法を紹介してきましたが、これを再度見直し、改めてチャレンジします。
高志らの実験をもう少し見てみましょう。
多くの実験結果をまとめたものが図-3です。有効上載圧が高くなると凍結膨張率も吸排水率も低下し、吸水から排水に転じることや、凍結膨張率と吸排水率の差がほぼ一定であることがわかります。
この図の横軸を1/有効上載圧に変えて描いたものが図-4です。プロットが直線状になることから、凍結膨張率も吸排水率も有効上載圧に反比例していることがわかります。
今度は、有効上載圧を一定とし凍結速度を変えて行われた実験結果です。図-5からは、凍結速度が大きくなると凍結膨張率も吸排水率も小さくなることや、凍結膨張率と吸排水率差は凍結速度によらずほぼ一定であることがわかります。横軸を1/√ 凍結速度にとると、プロットは直線状になり、凍結膨張率も吸排水率も √ 凍結速度に反比例することがわかります(図-6)。
参考文献:
1)高志勤,益田稔:拘束圧下における土の凍上量 と間隙水移動について,雪 氷,Vol.33,No.3,p.109-118,1971.
2)高志勤,益田稔,山本英夫:土 の凍結膨脹率に及ぼす凍結速度,有効応力の影響に関する研究,雪 氷,
Vol. 36,No.2,p.49-68,1974.