技術資料

Feel&Think

メッシュを切らない有限要素解析

担当:里 優
2005.02

これまで、有限要素解析を中心に、幅広く活用されている数値解析技術をご紹介してまいりました。地盤工学や地下水工学などの分野では、これらを用いたシミュレーションが欠かすことができないツールになりつつあります。

一方で、ここ20年ほどの間、数値解析技術自体の発展は、停滞しているように見えます。これは、それ以前に多くの研究者や技術者によって発明され、改良されてきた技術が、工学における実際のニーズ、例えば設計や施工管理に活用され、むしろ実用化の方向に技術開発の目が向けられてきたからだと考えます。しかし実際には、コンピュータの高速化と相俟って、数値解析技術は確実に進歩しているのです。

今回からは、あっと驚くような数値解析の最前線をご紹介していこうと考えています。有限要素解析では、解析領域を網の目状の要素に分割する、いわゆるメッシュを切る操作が必要です。これを行わないで解析してしまおうという、メッシュレス解法があります。また、流体力学の手法を変形問題に応用し、土石流のような流動性を表現することができる解析手法、解析領域を細かい粒子の集合体でモデル化し、粒子それぞれの運動を計算してマクロな変形挙動を表現しようとする解析手法なども開発されています。

さらに、変形問題と熱伝導問題、地下水流れの問題を同時に解く解析や、地下水とガスの流れを取り扱う解析など、複雑な自然現象を表現する解析手法に挑戦している技術もあります。

変わったところでは、病院で行われるCTスキャンのように、例えば地表面から地下の物性を推定する逆解析手法も最近では改良されつつあります。これらを何回かに分けて紹介していきましょう。

今回は、有限要素解析ながらメッシュを切るという作業を行わない解析方法をご紹介します。皆さんが有限要素解析を行おうとする際に、一番面倒くさいのがメッシュを切る作業です。これが無ければ、解析対象領域の境界や材料特性の境界だけを定めればよく、使い慣れたCADのデータのみから、即座に解析ができるのですから。

有限要素解析では、変形や荷重あるいは水圧などの変化量を、節点とよばれる点で代表させます。もし、この節点だけを解析領域内に適当にばらまくだけで、要素分割を気にせずに解析ができればこれに越したことはありません。また、大変形問題のように節点がどんどん移動していくような解析も、要素を定義せずに計算できることになります。このような解法はフリーメッシュ法と呼ばれています。

この方法では、図-1のように領域内の各節点ごと(中心節点または着目節点)に、その付近の他の節点(衛星節点)を見つけ出し、これらと中心節点から、一時的に仮想三角形要素(局所要素)を生成します。これらの要素剛性マトリックスから中心節点に寄与する成分を求め、全体剛性マトリックスを生成するわけです。これらはソフトウェアの内部で処理されますから、解析担当者は、メッシュを気にする必要が無いわけです。また、節点が移動していっても、そのたびに仮想三角形要素を定義していき、常に自動的に全体剛性マトリックスが定義できます。さらに、これらの処理は節点ごとに行えますから、並列分散処理に適しており、計算の高速化も図ることができます。図-2に、この手法で行ったフレッシュコンクリートの流動解析の例を紹介します。

図-1 仮想三角形要素の生成方法 (富山潤:琉球大学工学部)

図-1 仮想三角形要素の生成方法 (富山潤:琉球大学工学部)

図-2 フレッシュコンクリートの流動解析(富山潤:琉球大学工学部)

図-2 フレッシュコンクリートの流動解析(富山潤:琉球大学工学部)

もう一つの方法は、解析対象領域を細かい四角形や立方体の組み合わせでモデル化してしまおうというもので、ボクセル法と呼ばれます(図-3)。この方法では、解析対象領域に目の細かい網をあてて、網目の中に解析対象があれば網の目そのものをメッシュにしてしまいます。図-4に示すように、網の目が細かければ細かいほど、実際のモデルに近くなるわけです。数学的には複雑な方法を使いますが、解析担当者はそのことを気にせず、CADでモデルを作成すれば自動的に解析モデルができてしまいます。

図-3 ボクセル法の概念 (鈴木克幸:東京大学新領域創成科学研究科)

図-3 ボクセル法の概念 (鈴木克幸:東京大学新領域創成科学研究科)

図-4 ボクセル法によるモデル化 (鈴木克幸:東京大学新領域創成科学研究科)
図-4 ボクセル法によるモデル化 (鈴木克幸:東京大学新領域創成科学研究科)

図-4 ボクセル法によるモデル化 (鈴木克幸:東京大学新領域創成科学研究科)

この方法の利点は、材料が入り組んだモデルでも簡単にモデル化してしまうことです。例えば、亀裂の多数入った岩盤の浸透流解析で有限要素モデルを作成するのは、現実的には困難です。しかし、この方法では少しの工夫でモデル化できてしまいますし、節点や要素の数を少なくすることができるため、解析時間も節約することができます。

いかがでしたでしょうか。このように、数値解析手法は着実に進歩しているのです。次回は、解析対象領域を細かい粒子でモデル化する方法をご紹介しましょう。流体でも固体でも何でもモデル化してしまう、造物主にも迫る方法です。お楽しみに。

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