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第3回 粘性境界の処理

担当:里 優
2016.03

前回は、動的陽解法で動的解析を行う方法を説明しました。また、底面に強制水平変位を加えた棒状のモデル(図-1)を用いて、変位の伝播(弾性波の伝播)が正しく解けることを示しました。解析結果を見ると(図-2)、弾性波がモデルの両端で反射を繰り返していることがわかります。今回は、反射しない境界を加える方法を説明します。

図-1 解析モデル
図-1 解析モデル
図-2 モデル最上部の水平変位
図-2 モデル最上部の水平変位
動画-1 解析結果(動的陽解法による変形の経時変化)

モデルの上面を地表面とし、底面のさらに下まで地盤が続いていると仮定すると、このモデルに入力された弾性波は地表面で反射された後、底面では反射せずに底面を透過していくはずです。このような境界を実現する方法の一つに、粘性境界があります。

粘性境界は、LysmerとKuhlemeyerによって提案された方法で、境界面上に次のような表面力を発生させ、反射する弾性波を打ち消します。

数式1
数式2

ここに、τσはそれぞれ表面に沿う方向の応力と表面の法線方向の応力、ρは密度、VsVpはそれぞれ地盤のS波速度とP波速度、usrusnはそれぞれ表面に沿う方向の変位、表面の法線方向の変位です。

動的陽解法で粘性境界を実現するためには、表面に接している要素の物性と既知の節点変位を用い表面力を計算して、時間刻みの解析に加えて行きます。既知の節点変位を使うのが陽解法のポイントです。

数式3
数式4

ここに、ρeVseVpeはそれぞれ表面に接している要素の密度、S波速度、P波速度です。
節点変位は、ここでは2次元で一次の内挿関数を用いていることから、

数式5

などのように求めます。ここに、UsriUsrjは表面を構成する2つの節点の、表面に沿う方向の変位です。表面の法線方向も同様です。

また、加える節点荷重はやはり一次の内挿関数より次のようになります。

数式6

ここに、PsriPsrjは表面を構成する2つの節点の、表面に沿う方向の荷重、l は2つの節点間の距離です。

粘性境界の付加は、このように既知の節点変位から反射を抑えるための節点荷重を計算し、時間刻みの繰り返し計算にこれを加えていくだけで実現されます。

なお、粘性境界では強制変位の入力はできません。このため、式(3)と式(4)にしたがって、強制変位を表面力に変換してモデルに加えます。前回加えた強制変位を、表面力に変換し加えた場合の解析結果と動画を示します。まだ粘性境界は付けていません。モデル底面の水平変位が固定されないため、反射されてくる変位が先の解析結果と比べて逆方向(逆位相)となっていることがわかります。

図-3 表面力を加えた場合のモデル最上部の水平変位
図-3 表面力を加えた場合のモデル最上部の水平変位
動画-2 表面力を加えた場合の解析結果

次に、モデル底面に粘性境界を付加した場合の解析結果を示します。ただし、粘性境界を付加した境界から表面力を入力した場合、入力した表面力のちょうど半分が粘性境界によって打ち消されるようで、表面力としては粘性境界が無い場合の倍の値で加える必要があります。解析結果を以下に示します。粘性境界によりモデル底面からの反射が抑えられていることがわかります。

動的陽解法のアルゴリズムには、粘性境界も簡単に取り入れることができることを示しました。次回は、動的陽解法を用いて静的解析を行う方法をご紹介します。

図-4 粘性境界を付加した場合のモデル最上部の水平変位
図-4 粘性境界を付加した場合のモデル最上部の水平変位
動画-3 粘性境界を付加した場合の解析結果
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