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第8回 H/Vスペクトル比の二つの傾向
K-NETのデータを用いてH/Vスペクトル比の特徴を調べていくうちに、地盤の性状とH/Vスペクトル比の形状に一定の関係があることに気が付きました。今回は、H/Vスペクトル比が表す地盤の性状を掘り下げて行きたいと思います。
K-NETでは、それぞれの観測点における地盤のボーリング結果が公表されています。各観測点で得られたH/Vスペクトル比と地盤の性状を見比べると、次のような傾向が見らます。
- S波速度が小さい層が深くまで続く地盤(以下の図で左側)では、周期1秒前後に最大値をもつ山形のH/Vスペクトル比の形状となっている。
- 地表面近くにS波速度が大きい堅固な地盤が存在している場合(以下の図では右側)では、H/Vスペクトル比の値が小さいフラットな形状か、短い周期に最大値を持ち右肩下がりの形状をしている。
第6回でも紹介しましたが、中村は「軟弱な地盤では水平動が上下動に較べて大きく、堅固な地盤では水平動と上下動が同程度の振幅で波形特性も類似している」との経験的知見を示しており、上記の結果もこれを裏付けるものとなっています。すなわち、軟弱な地盤ではH/Vスペクトル比に大きなピークが現れ、堅固な地盤ではH/Vスペクトル比がフラットな形状となると考えられます。
いま、S波速度が小さい層が深くまで続く地盤で、その下部に比較的堅固な基盤がある2層構造を考えます。上部の地盤のS波速度vsが一様であれば、その厚さをhとして上部地盤の固有周期Tpは次のように求まります。
![数式](/wp/wp-content/uploads/2023/07/eq08_00.png)
仮に、hを30~50m、vsを100~200m/sとすれば、Tpは1秒前後となります。上記の結果、先に述べた傾向の1つめでもH/Vスペクトル比の最大値は周期1秒前後にあり、この最大値は地盤の固有周期Tpと見なすことができそうです。換言すれば、H/Vスペクトル比が周期1秒前後で最大値を示す地盤では、表層部にS波速度が小さい層が厚く存在する可能性が高いと考えることができます。このように、H/Vスペクトル比の特徴からは地盤の性状を推定する手掛かりが得られます。
(出典)
中村豊:H/V スペクトル比の基本構造,物理探査学会第3回地震防災シンポジウム「微動と地震防災」,2008. K-NET:防災科学技術研究所の全国強震観測網
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