技術資料

Feel&Think

第1回 揺れから得られる情報

担当:里 優
2019.01

今回からは新たなシリーズとして、地震時に計測された地盤や構造物の振動データから様々な情報を読み取る方法を、ご一緒に考えていきたいと思います。

地層科学研究所では、地盤の液状化の予測や液状化対策工の設計を目的とした数値解析などで、地盤や構造物の振動データを取り扱います。例えば、数値モデルへ入力する地震動としての加速度時刻歴データが代表格です。これは、地震の発生源としての断層や地震の伝播経路となる地層の性状を仮定して求めたり、構造物に対しては加速度応答スペクトルを仮定し、これより逆算して求めたりします。また、入力された地震動に対する応答として、地盤や構造物の加速度時刻歴データが得られます。

このような解析は数多く行われる一方で、液状化が発生した地盤や構造物で「計測された」加速度時刻歴データを目にする機会はあまりありません。これは、検討対象となる地盤や構造物に加速度センサが設置してあることが稀であるためです。もし加速度センサが設置されていれば、液状化が発生した際に地盤や構造物に揺れにどのような変化が生ずるのか、数値解析での推定と整合しているかなどを明らかにしていくことができます。液状化が発生しなくても、得られた加速度時刻歴データには地盤や構造物の力学的特性が反映されていると考えられることから、データを分析することで地盤や構造物の特性を割り出すことができます。このような意味で、本シリーズのタイトルとした「地震の揺れは情報源」ということができます。

このような情報分析を可能とするために、地盤や構造物に加速度センサを設置したいところですが、一般的な加速度計測システムは、1計測点あたり数10万円から100万円の費用がかかり、気軽に設置するというわけにはいきません。そこで、地層科学研究所では廉価な加速度計測システムを開発しました。これがGeo-Stickです。加速度の計測はMEMS加速度センサで行い、データ通信機能も備えています。MEMS加速度センサは、スマートフォンやゲーム機に大量に使われていることから、非常に低コストで手に入ります。これをビルや戸建て住宅など幅広い構造物に設置していただき、得られたデータから様々な情報を引き出していきたいと考えています。(参考:地震と建物のモニタリングサービスGeo-Seismo(ジオ・サイズモ))

Geo-Stickの外観
Geo-Stickの外観

では、地震時の加速度時刻歴データが得られた場合に、どのような情報を引き出すことができるでしょうか。

まず思いつくのは、地盤や構造物の健全性に関する情報です。例えば、地震時の揺れから地盤や構造物の経年劣化を評価したり、地震によるこれらの損傷度合を推定するための情報です。構造物に関しては、地震時に記録された加速度時刻歴データより固有周期を求め、設計時や建設時の値と同等か、地震後に固有周期が大きく変化していないか、などを調べることで、これらを評価することができそうです。では、液状化のような地盤の損傷はどうでしょう。これについては、本シリーズの後半で考えてみたいと思います。

もう一つ知りたいことは、地盤や構造物の大地震時の揺れの推定です。中小の地震時における地盤や構造物の揺れから、大地震時の揺れを推定できれば、耐震補強の検討などに役立ちそうです。

ところで、Geo-Stickの販売は始まったばかりであり、これらを検討するに必要な加速度時刻歴データは十分ではありません。そこで、本シリーズでは、K-NETと呼ばれる地震観測網で得られたデータを用いて、これらの方法を検討することにします。

K-NETとは、国立研究開発法人防災科学技術研究所が運用する全国強震観測網で、Kyoshin Netの略称です。特徴は、全国を約20km 間隔で均質に覆う1,000箇所以上の観測施設からなる、密度の高い強震観測網であることと、地表面上に統一した規格で強震計が設置されている点です。運用開始は1996年6月で、これ以降の全国の地震に対応した貴重な記録に接することができます。Webに設置されたページでは、地震の検索機能なども充実しており、データを見たい地震に適切にアプローチすることができます。

次回からは、中小の地震時における地盤や構造物の揺れから、大地震時の揺れを推定する方法を、K-NETのデータを使いながら検討していきます。

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