やわらかサイエンス

世界遺産・石見銀山(中編)

第139回担当:藤原 靖(2022.8)

前編では石見銀山の鉱山としてのおおまかな歴史を紹介しました。石見銀山は、銀の産出量が多い銀山ですが、鉱山としても息の長い銀山でした。
中編では、鎌倉時代末という古い時代からの銀山の採掘を可能にした地質と鉱脈の特徴について紹介します。


- 地質と鉱脈 -

石見銀山には、鉱石がある場所の岩が柔らかく掘りやすい、鉱石が地表に近い場所にあり採取しやすい、初歩的な製錬方法で鉱石から銀を取り出しやすいという3つの要素が兼ね備わっているところが、古くから銀山としての発展した鍵でした。


柔らかい岩石でできた山

石見銀山は、標高約500mの仙ノ山の地中にあります。仙ノ山は、160万年前くらいの更新世に活動した火山です。仙ノ山は、火山礫や火山灰などの溶岩の砕けたものが堆積してできた山で、火山砕屑丘という地形に分類されます。したがって、地質としては柔らかい岩石でできた山という特徴があります。
仙ノ山の頂上や地表に近い位置に「福石鉱床」という石見銀山の主要鉱床があり、地質は凝灰角礫岩です。凝灰角礫岩は日本の各所で見られ、横穴や摩崖仏などが掘られている非常に掘りやすい岩石です。一方、後世の開発の主体となる「永久鉱床」は、頑火輝石安山岩や第三紀頁岩砂岩で、やや硬い岩石となっています。


石見銀山の鉱床断面図
石見銀山の鉱床断面図

地表に近い岩石に染み込んだ銀

石見銀山の鉱床は、「熱水鉱床」と呼ばれるものです。岩石の割れ目に地下の高温のマグマに由来する熱水が吹き上がり、その割れ目に銀鉱物が沈殿してできたものです。鉱床にはその他、マグマが地下でゆっくり冷えて固まる際に各元素が分離・濃集して鉱床ができる「火成鉱床」と地上の岩石が風化して風や水で運ばれ特定箇所で堆積してできる「堆積鉱床」があります。
「熱水鉱床」には、岩石の割れ目に資源となる鉱物が沈殿して板状の鉱脈を作る「鉱脈型鉱床」、多孔質の岩石のすき間に資源となる鉱物が染み込んで沈殿して鉱石に変化した「鉱染型鉱床」があり、石見銀山には両方の鉱床があります。
1300年頃から露天堀りが始まり江戸時代に栄えた石見銀山の鉱脈は、仙ノ山の東側の「福石鉱床」と呼ばれる鉱脈です。こちらの鉱床は「鉱染型鉱床」で、地表に近い位置、地中の浅い位置に分布しています。鉱脈は数cmの幅ですが、鉱染型だと脈の周囲にも鉱石があるため比較的広い範囲から鉱石が得られるため効率的でした。
西側の地中深い位置には、「永久鉱床」と呼ばれる「鉱脈型鉱床」があり、こちらは亜鉛、銅、鉄の鉱石を伴い、坑道は地下数100mまで広がっています。


銅が混じらない銀の鉱石

「福石鉱床」で産出する鉱石は、自然銀、輝銀鉱の他に方鉛鉱、菱鉄鋼、マンガン鉱などを伴います。自然銀は純粋な銀ですが、その他の鉱石には銀以外の元素が混じっています。そのため製錬が必要となりますが、これらの鉱石には銅が含まれていないため、1533年に伝わった灰吹法により高純度の銀を製錬することができたそうです。地表に近くて掘りやすく、鉱石を得やすく、製錬がしやすいのが「福石鉱床」の特徴です。
一方、「永久鉱床」で産出する鉱石は、自然銀、輝銀鉱の他に閃亜鉛鉱、黄銅鉱、黄鉄鉱、菱鉄鉱、赤鉄鉱を伴います。これらの鉱石には銅が混じっているため、灰吹法で製錬することができません。そのため鉱山の本格的な開発は、灰吹法の後に伝わる「南蛮吹」の出現まで待つことになります。


南蛮吹
銅と銀の混じったものに鉛を使って取り除く精錬法です。銀を含んだ粗銅と鉛を溶融し急冷して作った合金を加熱し、銅の融点以下で銀と鉛を溶け出させて分離するものです。銀と鉛の合金は、灰吹法で精錬します。鉛の融点は327.5℃、銀の融点は961.8℃、銅の融点は1,085℃です。南蛮吹や灰吹法で使用される鉛は融点が非常に低く、方鉛鉱などから焙焼により容易に製錬できることが分かります。

左:銀の鉱石 右:鉱石砕きに使った石
    左:銀の鉱石            右:鉱石砕きに使った石

中編では石見銀山の発展の鍵となった石見銀山ならではの地質と鉱脈の特徴についてみてみました。後編では、石見銀山の掘削方法と製錬方法について紹介します。