
地質時代区分・第四紀の再定義―人類の出現と世界的な寒冷化のはじまり(前編)―
はじめに
地球が誕生してからおよそ46億年,その長い歴史を幾つかに分けた地質時代区分という定義があります。区分は,大きなものから代>紀>世>期に分けられており,最も大きな区分の「代」ですと古い時代から,始生代・原生代・古生代・中生代・新生代に区分され,更に細かい区分の「紀」ですと,例えば新生代の場合,第三紀・第四紀に分けられます。

「どうして,「第三紀」や「第四紀」があるのに「第一紀」や「第二紀」がないの?」と思っている方もいらっしゃるかと思いますが,それにはわけがありまして,19世紀にこの年代区分を作った際には,「第一紀」から「第四紀」までちゃんとあったのですが,その後の研究などで,「第一紀」や「第二紀」に当たる部分が非常に長いことが分かってきて,それらを「始生代」・「原生代」・「古生代」・「中生代」として再定義していったというわけです。
今日,私たちが生きている時代は,地質時代区分で言うと「第四紀」という区分に当てはまります。最近,この「第四紀」の定義についてさまざまな議論が世界中で行われ,2010年6月にこの「第四紀」という地質時代区分が,国際地質科学連合(International Union of Geological Sciences)で新しく再定義され,第四紀の始まりをこれまでよりも約80万年遡ることを批准しました。
では,その第四紀の再定義の経緯や,新しく定義された第四紀の始まりというのは一体,どのような世界だったのでしょうか? また,その時,我々人類はどこで何をしていたのでしょうか?今回のやわらかサイエンスでは,この「第四紀」という時代に焦点をあてたいと思います。
第四紀の再定義の経緯
第四紀という時代は,簡単にまとめると人類と深く関係している時代,それから,氷河時代などに代表されるように気候変動が起き,それに伴って,過去から将来にわたる地形・地質の変化が起きている時代と認識されています。定義については,1985年に国際地質科学連合において,イタリアのヴリカ地域を模式地(基底がみられる典型的な地域)とし,そこのカラブリアン階※(Calabrian)の下限のe層を第四紀のはじまりとし,その年代は古地磁気のデータから180.6万年前と定義されました。
でも,なぜ,ここを第四紀のはじまりとしたのでしょうか。それは,その層準から北方系の微化石(大きさが数mm以下の特に小さい化石/有孔虫などの微小な生物や花粉の化石)が入ってきて,種の構成が変化してくる時期と,人類の出現期(アフリカのオルドバイ渓谷)がちょうど同じ時期であるということに注目して定義されました。つまり,人類の出現と凡世界的な寒冷化のはじまりを第四紀と定義していました。
しかし,その後の研究から,さまざまなデータが得られ,引き続き議論がされてきました。まず,人類化石については,次々と古いものが出現するようになり,もはや,人類の出現時期には対応しないことがわかってきました。そして,地中海以外の地域では,定義された時期では寒冷化の証拠が認められないことなどが指摘されていました。
その一方で,深海底堆積物中の底生有孔虫の殻から急速に寒冷化が起きた時期や北半球の大陸氷床の拡大を示す海氷由来の砕屑物の増加の時期,さらには,中国の黄土高原のレス(黄土)堆積物の堆積開始時期は,250~280万年前であるという研究データが多くなるようになってきて,第四紀の再定義についての議論が行われていました。
この第四紀の再定義をめぐって様々な議論が行われ,例えばこの寒冷化という現象を説明する多くのデータは,いずれも極短時間に劇的に変化するというものではなく,徐々に変化していく傾向があるにすぎないため,新第三紀から現在までまとめて一つの時代とするという案もあったようです。

そんな中,2009年6月に国際地質科学連合(International Union of Geological Sciences)でこの第四紀の定義の議論に終止符を打ちました。その内容は,新しい第四紀の模式地はイタリアのシチリア島のモンテ・サンニコラ地域とし,第四紀の下限はジュラシアン階∗(Gelasian)の下限とし,その年代は,Gauss-Matuyama Chron境界の直上の258.8万年前に再定義されました。この新しい年代は,従来よりも80万年ほど古くなることになります。

それでは,実際に250~280万年前,地球上はどのような状態だったのでしょうか?そして,第四紀の再定義は地球の歴史的にどのような意味をもつのでしょうか?いろいろなデータを見ながら検証していくことにしましょう。
※1 [酸素同位体比変動から見た第四紀の始まりの寒冷化],第四紀研究,Vol.49,No.5,2010,pp.275-pp.281
※2 [パナマ地峡の設立と世界的な寒冷化-第四紀の新しい定義と関連して-],第四紀研究,Vol.49,No.5,2010,pp.283-pp.292