やわらかサイエンス

A diamond is... forever? from where? - ダイヤモンドは何処からやってくる? -

第57回担当:重廣道子(2009.07)

早いもので暦は7月。6月のカレンダーをめくると,「もう今年も半年過ぎたか・・・」と、何とも時の過ぎる早さを感じます。6月と言えば,梅雨,田植え,紫陽花,山開き・・・ジューンブライド。6月の花嫁は幸せになるという言い伝えから,6月に結婚式を挙げる人々も多いものですね。結婚から連想する一つは・・・指輪。指輪を飾る代表的な宝石といえば・・・ダイヤモンドですね。


ある宝石会社の"A Diamond Is Forever"という有名な宣伝文句も手伝い1), 2),ダイヤモンドは宝石の中でも特別なものとして存在しています。高価な宝石として取引されているダイヤモンドは,一体どうやってできるのだろう?そんな疑問をもったことがこれまでにあるのではないでしょうか?
今回のやわらかサイエンスでは,先ず,ダイヤモンドの特徴の幾つかについて,次に,一体どのように自然界でダイヤモンドができるのか探ってみましょう。


ダイヤモンドを囲む仲間達の図

ダイヤモンドは,自然界で産出される物質の中で最も硬いと言われており,1812年にドイツの鉱物学者Friedrich Mohrにより考案され,現在も使われているモース(Mohr's)硬度のスケールで最高の10に相当します3)


モース(Mohr's)硬度と鉱物)3) (硬度低:1<---->硬度高:10)


  1. 滑石(talc)
  2. 石膏(gypsum)
  3. 方解石(calcite)
  4. 蛍石(fluorite)
  5. 燐灰石(apatite)
  6. 正長石(orthoclase)
  7. 石英(quartz)
  8. トパーズ(topaz)
  9. コランダム(corundum)
  10. ダイヤモンド(diamond)

9と10はスケールとしては1しか違わないのですが,硬度には大変なギャップがあり,ダイヤモンドはコランダムの10倍硬いといわれています3)


それほど硬いダイヤモンドなのですが,ダイヤモンドを割ることはそれほど難しくはありません。
「え?」と思われたでしょうか。モース(Mohr's)硬度は,鉱物をひっかいたり削ったりした場合の硬さの指標であり,衝撃に対する強さとは異なります。
ダイヤモンドは,ギリギリとこするような力には強いのですが,靱性4)と呼ばれる物質の粘り強さが小さく,例えばハンマーで叩くような衝撃による破壊をうけやすいのです。また,ダイヤモンドは,劈開性と呼ばれる特定の方向に平行に割れやすい性質を持っています5)。割れやすい面は,原子・イオン・分子間の結合力が弱い面にできます。


ダイヤモンドの化学組成は大変シンプルで,炭素(C)という単一元素により構成されています。炭素といえば,空気中の二酸化炭素,日々口にするご飯などの炭水化物,肉などの脂質・たんぱく質にも含まれており,私たちの体も炭素から出来ています。


身近な炭素から,どのようにダイヤモンドのような硬い鉱物が出来るのでしょうか?ダイヤモンドの起源はいくつか考えられていますが6),ここでは,マントル由来のダイヤモンドがどのように生成されるか調べてみましょう。


ダイヤモンドを含有することで有名な岩石は,キンバリー岩7)と呼ばれる岩石で,その名前は,南アフリカ共和国の北ケープ州の州都,キンバリーに由来します8),9)。キンバリー岩は超塩基性の火成岩(29(2005.10):【アスベストはどこから来てどこへ行く?-地球で生きていくこと,資源の利用について考える-】参照)で,かんらん石(Olivine),がん火輝石(enstatite)などを含んでいます。このかんらん石はマントルの主成分です10)


かんらん石から主に構成されるマントルは,温度・圧力などの物理的条件,あるいは水分の混入により一部が融解し,マグマになります11)。マグマが上昇する時,周囲のマントル,地殻を砕き,パイプのような細い漏斗のような通り道を作り噴出します。この時,地下150km~200km,あるいはもっと深部に存在するダイヤモンドを含んだ岩石(例えばかんらん岩)をマントルから一緒に連れてきます。


ダイヤモンドが存在する深部の温度は900~1300℃,圧力は45~60kbarと推定されています12)。この圧力,温度の下で,炭素原子がダイヤモンドの結晶構造に配列します。圧力,温度に加えて,マグマの上昇速度もダイヤモンドにとって重要なポイントとなります。マグマの上昇速度は,数10km/hr,地表付近では数100km/hrに達すると考えられています12)。もし,マグマ,つまりは,ダイヤモンドがゆっくりゆっくり上昇をしてくると,周囲の物理・化学的環境で安定して存在できるように形を変え,同じく単一元素,炭素から成る石墨(graphite)へと相変化を起こしてしまいます。ですから,相変化を起こす余裕を与える間なくダイヤモンドを地下深部から運んでくる速度が必要ということですね。ダイヤモンドが温度,圧力条件により石墨に変化する一方,石墨にダイヤモンドが生成される温度,圧力条件を与えると,ダイヤモンドに変化します11), 12)


仲間たち、マグマからダイヤモンドと一緒に地上へ・・の図

キンバーライトと成るマグマの地殻への貫入は,先カンブリア時代の世界的造山運動に由来すると考えられています。したがって,ダイヤモンドの産出は,大陸の中でも古い地質条件が保持された安定した場所に限られます15)。大きな鉱床が,南アフリカ,ロシア,オーストラリアなどの大陸に分布しているのはこのためです。しかし,地質構造が新しい日本でも,近年,ごくごく小さな結晶ではありますが,愛媛県でダイヤモンドが発見されています16)


全てのキンバーライトからダイヤモンドが見つかるというわけではありませんが,漏斗のような形をしたキンバーライトからダイヤモンドは採掘されます。地表からダイヤモンドを採掘し始め,どんどん深部へと掘り進み,地下約1kmにまで達した鉱山もあるということです12)。地下150~200km,あるいはそれより深いマントルから,今手のひらにあるダイヤモンドは来たのかと思うと・・・地球のダイナミズムに改めて驚かされますね。


さて,少し視点が変わりますが・・・
ここで紹介したマントル以外にも,ダイヤモンドの起源は考えられており,キンバーライト以外からもダイヤモンドは採掘されています。ダイヤンドは資源として豊富に存在するけれど・・・(豊富というのは誤解を招く曖昧な表現ですが),本当はもっと供給できるのだけれど,宝石を売買する企業により市場に出回るダイヤモンドの量と価格がコントロールされているとの通説を耳にしたことがあるでしょうか2)
そして,今日では,不況による需要の減少に伴い生産が過剰にならぬよう,ダイヤモンドの生産量の調整がなされているということです17)。ダイヤモンドの価値は一体どこにあるのか・・・。


ダイヤモンドはその硬度から,工業用に研削,研磨材などとして広く使われています。実用的な価値の一方で,宝飾品となると,その価値の判断は難しくなります。宝石,特にダイヤモンドというのは,何らかの記念や記憶の証に求められることが多いものですね。多くの場合,宝石鑑定士に見てもらわなくては,ダイヤモンドなのか人工ダイヤモンドなのか,あるいは全く別な何かなのか,区別をすることが困難です。本物だと思っていたのに偽モノだった・・・。これは大変がっかりすることでしょう。


ダイヤモンドだってただの石という声もあるかも知れません。でも!ダイヤモンドが自分の手元に来るまでの道のりに思いをはせつつ,第三者から付けられた価値をそのまま受け入れるのではなく,自分自身で納得できる価値を見出すことができれば,その価値は,誰かの評価によって揺らぐものではないでしょう。


ウェディング風景



参考資料
※1 DeBeers
※2 DeBeers:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)より
※3 Mohr's scale
    The Concise Oxford dictionary of Earth Science, edited by Ailsa Allaby and
    Michael Allaby, Oxford New York, Oxford University Press (1991).
※4 靱性:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)より
※5 ダイヤモンドの加工法:トーメイダイヤ株式会社:
※6 小笠原 義秀, 超高圧変成作用起源のダイヤモンド, 早稲田大学出版部 (2009).
※7 キンバーライト:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
※8 Kimberlites
   The University of British Columbia,
   Earth and Ocean Sciences, Diamond Exploration Laboratory
※9 Myron G. Best,
    "Igneous and Metamorphic Petrology", Freeman Company, New York (1982).
※10 地球の構造:産業技術総合研究所 地質調査総合センター
※11 大谷栄治, 地球内部の岩石鉱物, 地質学雑誌, 14, 3, p.338-349 (2003).
※12 岡野武雄, 南アフリカ共和国のダイヤモンド鉱床, 地質ニュース, 479, p.53-66 (1994).
※13 The Geologic Record, Kimberlites in Kansas
    Kansas Geological Survey, The University of Kansas
※14 Kimberlite Pipes:Consolidated Global Diamond Corp.
※15 ダイヤモンド:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
※16 日本で初めての天然ダイヤモンド発見:名古屋大学環境学研究科
※17 ダイヤ産地のボツワナ,生産量半減へ 不況で需要激減/朝日新聞社