
一体それは何の種? -ひまわりの種から環境問題を考える-
暦は8月を迎え,夏真っ盛り。真夏の花といえば?多くの方がひまわりと答えるのではないでしょうか。その大輪の鮮やかな黄色の花の愛らしいこと,容易で生育が早いことから,小学生の頃,理科の授業の一環でひまわりの種を捲き,夏休みの宿題としてその成長の記録を綴った思い出を持つ方も少なくないことでしょう。でも・・・撒いていたのはひまわりの種だけなのでしょうか?

まず,ひまわりについて少し調べてみましょう。
ひまわりは,観賞用として好まれており,例えば,栃木県,茨城県,長野県,石川県,兵庫県,島根県,香川県など日本各地で観光産業に活用されています。ひまわりといえば,灼熱の太陽の下に咲く花だとイメージしがちですが,比較的冷涼な北海道でも花を咲かせています。北海道内では,名寄市,女満別町,北竜町のヒマワリ畑が有名です。ひまわりの花は,花畑だけではなく,農地にも見られます。実はこの田畑のひまわりは,ただ花を咲かせているだけではありません。
ひまわりが咲いた後に作物を植えると,その作物の生育・収穫量が上向きになると言われています。
ひまわりの根には菌がついて,ひまわりと菌が共生・・・つまり,ひまわりと菌が,お互いに何らかの関係を持ちながら生きていいます。ひまわりの根についた菌は,(やわらかサイエンス(2006.11)参照)を形成し,この菌根を形成する菌は,菌根菌1),2)と呼ばれます。
植物に必要な三大栄養素として,窒素,リン酸,カリウムがあげられます。このうち,リン酸は,作物の生育の盛んな部位に多く含まれ,新しい細胞やその核を作るために必要な栄養素です。また,根の発達,養分吸収,光合成,呼吸にも深く関係しています。しかし,リン酸は,土壌に吸着保持されやすいため,植物に取り込まれ難いのです。土壌中のリン酸が過多になると地下水中プランクトンの異常増殖を招くなど,地下水汚染を引き起こす原因となることもあります。
そのような中で,菌根菌は,宿主となる作物にリン酸の吸収を促します。菌根菌は,アブラナ科など一部の植物を除いてほとんど全ての植物の根について菌根を形成しています。菌根菌は,菌糸を伸ばし土壌中のリン酸を吸収し,菌根を介して植物に供給し,その代りに,植物からは光合成産物を受け取っています2),3)。
さまざまな植物に菌根菌はつきますが,その中でもひまわりは,菌根菌にとって優秀な菌根菌宿主なのだそうです。ある研究においては,ひまわりの栽培によって菌根菌が集まるおかげで,ひまわりの後作のトウモロコシや小麦などのリン酸吸収量が増え,生育・収穫量が改善されるという結果が出ています4),5)。ひまわりはただきれいな花というだけではなく,農地改良,土壌汚染防止に役立っているのですね。
ひまわりの恩恵を受けているのは,トウモロコシや小麦だけではありません。人間も!です。
ひまわりの花を愛でるだけではなく,ひまわりの種を食べたり,ひまわり油でてんぷらやフライを揚げたり,恩恵の享受の形は様々です。中でも,ひまわり油の利用は食用の枠を超え,ひまわり油を原材料とした燃料の生産が行われています6)。
植物を原材料とした燃料は,バイオディーゼルオイル(Bio Diesel Fuel: BDF)と呼ばれ,化石燃料に比べて硫黄酸化物や黒鉛の排出が少ないことが特徴としてあげられます。ひまわりからディーゼルオイルを抽出する技術開発は様々な研究機関で行われています。例えば,筑波大学では,産学リエゾン共同研究センター(ILC)の創業支援プロジェクトから,松村正利教授(生命環境)の研究成果を基にし,ひまわりの種子から採る油をバイオディーゼル燃料に加工し販売するベンチャー企業が設立されています7)。

バイオディーゼルオイルやバイオエタノールなど,生物資源から生産される燃料は,総括してバイオマスエネルギーと呼ばれます。バイオマスエネルギーの生産は,ここ数年注目を浴びていますが,古くから利用されている,薪・木炭や家畜の糞などもバイオマスであり,そのバイオマスを燃料(エネルギー)として利用している例なのです。昔は,薪や木炭を直接燃焼し,エネルギーとして利用していましが,現代では,生物化学返還,ガス化などの熱化学変換・化学合成によって燃料化をしています。
バイオマスのエネルギーとしての利用が注目される理由としては,化石燃料の枯渇への懸念や政情不安定による石油価格の変動の中,安定したエネルギーの確保が必要なためということがあげられますが,地球温暖化の一因として考えられている二酸化炭素量のバランスを保つため,ということもあげられます。
バイオマスの一つである薪を例に考えてみましょう。
薪の燃焼により二酸化炭素が発生します。発生した二酸化炭素は,樹木の光合成に利用され,酸素と有機化合物となります。光合成により成長した樹木は,やがて燃料となる薪を供給し,その薪の燃焼は樹木の成長に不可欠な二酸化炭素を供給します。このように,バイオマスの利用と二酸化炭素量について,排出される二酸化炭素が植物に固定されることで地球上の二酸化炭素量が相殺される(カーボンニュートラル8))という考えがあります。しかし,このバランスが本当に確立されているか否かは議論の対象となっています。例えば,バイオマスエネルギー燃焼の段階で排出される二酸化炭素だけではなく,原料となる作物の栽培,そしてその作物からバイオディーゼルやバイオエタノールを生産する過程でも二酸化炭素が排出されるため,単純な収支計算は出来ないとも考えられるからです。
バイオマスエネルギー生産の課題としては,採算性向上のための技術開発,効率的に油がとれるひまわりの品種の開発,燃料としての品質改良(粘性,カロリーなど)があげられます9)。バイオマスエネルギーを生産するために,生産されるエネルギーより多くのエネルギーを消費してしまうようでは,経済的とは言えません。また,食用のサトウキビやトウモロコシ,大麦,小麦,ビートなどがバイオマスエネルギーの生産に転用されてしまう,あるいは,野菜や穀物を生産していた農地をバイオマス原料生産用に転換するという動きが始まり,穀物の価格が高騰するといった現象が起きています。そこで,洞爺湖サミットにおいては,食料安全保障の声明文書の中で,「バイオ燃料の持続的な生産・使用に関する施策と食料安全保障の両立を確保。非食用植物や非可食バイオマスから生産される第2世代バイオ燃料の開発と商業化を加速。」10)という記述がなされました。
洞爺湖サミット11),12)・・・そうです。7月に洞爺湖でサミットが開催されましたね。洞爺湖サミットは,環境サミットとも呼ばれていました。環境問題は,大きすぎて漠然として,何をどうしていいのか分からない,自分一人の手で何が変わるのか?と思いがちです。けれども,燃料やそれに起因する物価の高騰にはうんざり・・・ではありませんか?その原因はどこにあるのでしょう。誰が撒いた種なのでしょうか?なんだかよく分からないから,そのまま・・・で本当に良いのでしょうか??では,どうすれば良いのか?一体何が起きていて,何が問題なのか,先ず知ることから始めるのもひとつでしょう。
洞爺湖サミットで,何を何のために話し合ったの?そしてその結果は?サミットの後はどうするの?・・・洞爺湖サミットを振り返ってみませんか11),12)?

※1 菌根(ウィキペディアより)
※2 北海道大学大学院農学院・環境資源学専攻森林資源科学講座「菌根・菌根菌とは何か」
※3 BotanyWeb:菌根
※4 北の農業情報広場(hao):輪作におけるアーバスキュラー菌根菌の動態と畑作物への前作効果
※5 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所:アーバスキュラー菌根菌がかかわる前作効果におよぼす土壌水分・リン酸肥沃土の影響
※6 ヒマワリ油のオゾン処理によるディーゼルエンジン燃料の生産
※7 サンケアフューエルス株式会社 研究開発 副産物利活用・新規植物燃料
※8 EICネット:カーボンニュートラル
※9 バイオディーゼル燃料の現状と課題
※10 北海道洞爺湖サミットの結果概要
※11 環境goo:洞爺湖サミットを振り返る
※12 環境省ホームページ