
氷期時代と動植物たち住処の歴史
北海道稚内の西およそ60kmの海上に浮かぶ日本最北の離島である礼文島。最高峰の礼文岳(標高490メートル)を中心に南北29キロメートル,東西8キロメートル,面積約82キロ平方メートルのなだらかな丘陵性の地形が広がっています。
天気の良い日は北海道の海岸線からも見ることができるきれいな島です。この礼文島は,レブンアツモリソウ,レブンコザクラやレブンウエスユキソウなどこの島にしか見ることのできない固有種やさまざまな高山植物が生育していて,花の浮島などと呼ばれています。このような貴重でかつ美しい植物をみるために多くの人々がこの礼文島に足を運んでいます。

この礼文島にみられる高山植物には他の地域とは大きく異なる特徴があります。それは,海抜0メートルつまり海岸から高山植物が展開しているのです。「きっと,最北端だからそうなんだよ~」と思うかも知れませんが,緯度がそれほど変わらない所にある大雪山では,海抜1600メートルを越えなければ礼文島でみられる高山植物は見られません。
この不思議な現象は,最終氷期からの離島化と深く関わっていると言われています。最終氷期,礼文島は現在の極北地域と同じような寒冷なツンドラ気候であったこと言われています。当時は,北海道本島,サハリンとも陸続きとなっており北方からツンドラ植物群が移住してきました。その後,氷河時代も終焉を迎え,急激な温暖化が始まるとともに海水準の上昇が始まります。そのため,礼文島は本島から離島化しはじめことで,本来北上へ移動するはずのツンドラ植物群の移動が妨げられ,そのまま残存する結果となったと言われております。このような現象を「レリック」と呼びます。近隣にある利尻島でも同様な現象が認められています。
また,このようなレリックと似たような現象は生き物たちにも認められます。それはヤマメやイワナです。ヤマメやイワナなどの種類は氷河時代では現在の鮭などの同じように海から川へ遡上してきて産卵し,孵化した稚魚は海へ戻るというような,海と川とを行き来していたと言われています。しかし,氷河時代が終焉を迎えると海水温の低い北方地域に生活圏を移した種類と水温の低い河川の上流域に移動しそこでのみ生活する種類に分かれ,後者は現在みなさんがご存じのイワナやヤマメであると言われています。このイワナやヤマメのようなタイプのことを陸封型と呼ばれています。


写真上:エゾイワナ 写真下:ヤマメ (撮影者:sanokichi)
このように,氷河時代には今現在とは異なる生活圏で暮らしていた生き物たちがいるようです。今後,地球上の気候が激変すると,新天地での生活圏を取得する生き物たちが出てくるでしょう。その時,われわれ人類の生活圏も変化していくのでしょうか。
1) 小泉武栄:山の自然学,岩波新書,1998.