
春の使者 -黄砂と地球環境との関係-
春の陽気になりました。春はいろいろな動植物たちが動き始め,なんとなくうれしい気持ちになりますが,花粉症の私は一番辛い季節でもあり,なんとも複雑な季節です。また,この季節になるとアジア大陸から私たちが住む日本列島に訪問者があります。
それは,黄砂です。黄砂現象は,アジア大陸の砂漠地域や黄土地帯からダストストーム(砂塵嵐)と呼ばれる風により大気中へ舞い上がり,偏西風に乗って海を渡って,日本列島など広い範囲に降下するものです。よく,春になると空がやや黄色っぽい色になることがしばしば見られます。黄砂粒子の大きさは全体としては0.5~0.001mmの範囲ですが,中国,韓国,日本の順に小さくなります※4)。飛散距離に関しては,日本はもちろんのこと,アメリカまで飛んでいったことも報告されています。
黄砂粒子は,石英や長石などの造岩鉱物や,雲母,カオリナイト,緑泥石などの粘土鉱物が多く含まれています。化学分析の結果ではケイ素(Si)の他,長石や粘土鉱物に由来するアルミニウム(Al),方解石などに由来するカルシウム(Ca),イライトなどに由来するカリウム(K)が多く含まれています。また,興味深いことに,土壌起源ではないと思われるアンモニアイオン,硫酸イオン,硝酸イオンなども検出され,輸送中に人為起源の物質を取り込んでいる可能性が考えられています※4)。

この黄砂現象は,日本では空が霞んだり,微量の黄砂が積もったりする程度でそれほど甚大な被害は少ないですが,発生源に近い中国では,家畜の死亡・行方不明,農作物への被害,交通・通信網の麻痺など甚大な被害を受けています。また,韓国・ソウルでは2002年に,大気中に浮遊する粒子状物質のうち直径が10μm以下の粒子状物質の総量を示す値が,環境基準値を大幅に超え,幼稚園,小中学校,高等学校に休校令が出されるなど深刻な社会問題となったことがあります。
この黄砂は,地球気候にも影響していることがわかってきています。それは,黄砂粒子が太陽光を吸収することによる加熱効果と太陽光を日傘のように遮ってしまうことによる冷却効果があると考えられています※1)。また,大気上層の黄砂粒子が氷晶核となり絹雲の生成に関係することや、長距離輸送される黄砂粒子の人為起源粒子との混合により雲の雲核となる役割が注目され始めています。
また,こうした気候への影響の他に,海洋生物圏への影響もあると考えられています。それは,黄砂粒子には鉄分やリン等のミネラル分が含まれており,それは海洋に降下すると海洋表層の植物プランクトンの栄養塩として働き,プランクトンを供給させる役割をもっていると言われています※3)。
このように黄砂粒子は,私たち人間活動だけでなく,地球の大気圏や生物圏にまで深く関わっているのです。こうした中で,黄砂に対する取り組みとして,気象庁では,黄砂観測実況図および,黄砂予測図をホームページ上で掲示しています※2)。また,国境を越えた国際プロジェクト,黄砂モニタリングネットワークの整備なども進んでいます※4)。黄砂に関するより詳細な解説は以下の参考文献のサイトに掲載されておりますので興味のある方は是非,ご覧下さい。